第40章 悔いのない人生を
……しばらく戻れないのは時間の掛かる任務上、仕方ない事だけど、日帰り程度のちょっとした再会くらいは許されるだろ?
警戒を怠らないまま休息として見知らぬ街をぷらぷら歩いている時、ふとスマホの画面を見た瞬間に時間よりも日付に目が留まった。季節は夏が終わる頃。そう、僕と彼女の思い出のあのシーズンってワケだ!
「……ふふ、」
ショーウインドウ側に立ち止まり、ポチポチと文字を打ち込んで彼女にメッセージを送りつける。日付と場所、それから護衛に息子でも連れて来なよって。
送信後にひとり見上げた空は、遠くても家族もこの空の下ってのは変わらないという嬉しさ。地球の裏側とかじゃなく、同じ日本ってのはまだマシか…。
「僕は昔と変わらず、オマエが大好きだからね~……、ふふふっ、こうしてられない、いつものを手配しなくちゃね~?」
そうと決まれば行動あるのみ。
僕はいつもの花屋に連絡を、そして…──。
────
──
悟からの指定された日を迎え、私の仕事が終わるのを見計らって医務室に蒼空と夕陽が私を迎えにやって来た。
私の運転で三人で車に乗り、悟の指定したそこへと向かえば、何度か来たことのあるレストラン。入り口に貸し切りと書かれてる時点で、彼らしいなと察してましたけど。
店内に入れば遅刻が大大大、大の得意な彼が(しかも相手を見てのね!)既にそこに居て、きっちりと身だしなみを整えて椅子に座ってる。
私達を目で追い、手を振って「待ってました!」とはしゃぐ声に悟の元へと向かう私とその後を着いてくる子供ふたり。ちゃんとその貸し切りの彼が居るテーブルには四人分のカトラリーがセットされててさ。
椅子から立ち上がった悟はこちらに背を向け、少し屈んで。ガサガサ、とラッピングの音を立て、悟の背後に隠し置いていただろう、白の比率の多い青と白の薔薇の花束を抱えてこちらを向く。
……ふふ、にっこりと得意げな顔しちゃってさ!
「はーい、こちらいつものようになっておりまーす」
『律儀だねえ~……今年もありがと』
悟から差し出された花束を覗けば、青が六、白が九という変わらない本数の薔薇。
昔、彼が一度だけ「トラック一杯に積んで持ってくる事も出来るけど?」という提案も事前に相談してきたけれどそれは丁重にお断りしてる。この本数で腕に収まって、纏まってる方が丁度良いしね。