第40章 悔いのない人生を
「……来たよ、鎹」
その私が口にした人物名は初代に向けた言葉とも、側に寄り添う娘に向けた言葉とも取れる。実際に私は今回関係ある、二人を含めて名前を口に出していたんだし。
生きた私達三人の元ににじり寄るように多くの死者達がやってくる中で歩幅を大きくひとりこちらに寄るのは私の母、リョウコ。その私の母を顔を向けてた初代と、「…お婆ちゃん?」と同じく顔を向けている、今回術式の譲渡をされる現在末代の位置に居る娘、鎹。
"来たか、ハルカ、そして末裔"
「さとるんも居るよ」
"フフ…私と同じ名前を着けるとはまさか想像もしてなかった……"
「僕も僕もー、無視されるとは微塵も思ってなかったですー」
『はい、悟は少し黙りましょうね?』
私と初代の会話に口を挟む彼を一言注意すれば、すん…と下唇を出して速攻拗ねてる。そう拗ねられましても今はご機嫌取りが出来ませんので彼については後回しにするとして…。
連れてきた子の小さな肩に触れながらそっと初代の方に一歩進ませると、片手を出した初代の鎹は生まれつき白に染まった頭に優しく手を乗せた。
"術式の譲渡をする"
『……あんたが消える事に未練は…?』
布一枚に隔てられ表情の隠された顔をこちらに向けて、その一瞬見えた唯一の表情は、ふっ、と短く口元で笑った彼女。
この世界で目立つ存在の枯れた木を向いて悲しげに"未練しか無いが…"と肩を落とし本音を漏らした。
"もうどうしようもないからな…、だからといって私が前に進む理由もなく、当然後ろに下がる事は出来ない。遅かれ早かれこうするべきだったんだろう。
この後の事は一度、オマエの母に。ハルカがここに来た後にこの領域については全てを任せる"
『ん、任せといてよ。死んだ後なら時間はいくらでもあるんだし』
とても長い時間を過ごすのは約束されてる。色々と管理者としての領域内での特権があるのなら、それらでなんとか出来ないかあらゆる方法を試してみたい。きっとなにか手段があるはず……。
最期が来るまで精一杯生きて、死んだ後も頑張ろう。
……七海にこの事を話したらきっと、死後も残業を引き受けるなんて貴女、馬鹿なんですか?とでも言われちゃいそうだけど。