第40章 悔いのない人生を
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末の子の鎹が六歳を迎える頃。私と悟と末の子の三人で、京都の春日本家へと来ていた。
龍太郎とマリアの子供が鎹に向かって親しげにぶんぶんと手を振って、こちらに来ようとしていた所「忙しいから邪魔にならないよう、こちらへ」と優しく呼ぶマリアの元へとUターンで駆け出していく。
龍太郎達には私が引き継いだこの領地に、手入れを含めて住み込んで貰っているけれど、これはこれで良い結果になったんじゃないかな、と私は思ってる。
本家だとか分家だとか言う以前に私は悟と一緒になった。本来の春日の名前を継ぐ女達は婿を取っていたけれど、私の母リョウコはこの家を飛び出し、父と出会い、嫁になった。だから婿を取ったのではなくみたらいという名前であって……。
私も多くの女性達と同じように夫となる人の名字を貰い、春日でもみたらいでもなく五条になってさ…。
五条家に嫁入りをして、私が切り捨てたのは名字だけじゃない。これまでの人を憎む思想を受け継いてきたのは私の代から変えるんだと、区切りとしてここの家は私には必要なかった…、というか東京に住みながらこっち(京都)に来るのは高専のみの目的であって、本家自体に用も無いしね…。
……一応、この家は五条家の持ち物にしてもらってるけど。
悟と娘の鎹と私で手を繋ぎ、じゃり、じゃり…と玉砂利をゆっくりと歩いて、祖母や母の墓前で足を止めた。止めてもじゃり、と音がするのは鎹が足踏みや周囲とは違う色の玉砂利をつま先で蹴って遊んでいるから。
気持ち悪いくらいに、細長い墓石が墓と言うには狭い間隔で並んでいる庭の墓地。比較的新しい墓を前にして視線だけ離れた遠くの朽ちた墓石を見渡した。
周辺にこの家以外の人工物は無く、森の中で風もあまり吹かないとなれば、視界いっぱいに映るのは庭じゃなく墓地みたい……。
「ここらで良いでしょ、龍太郎達にも説明をしてあるし誰にも邪魔される事もない」
『……うん』
私達三人が向き合うのは女系で続いた一家の墓場。私達の背後には婿を取った、のではなく分家とされた春日家の男として生まれ、他の家からの呪術師の夫婦が子を生み、育てながら住んでいる龍太郎…これまでとは違う本家の扱いになってる。ここの少し前に長として務めていたヨミが知れば顔を真っ赤にしていたろうに、そのヨミは領域から通報されていないし、私も娘たちも咎める事なんてない。