第39章 七つの鎹
三歳児が悟の脚元でズボンの生地を掴んでるのを見て、父親である彼が「甘えん坊ちゃんね~」ともう一度追加で撫で、仕切り直しと言わんばかりにまた手を広げて。鼻をふんす、と鳴らし私を向いて待っている悟。言葉無くとも子供達とは違う、夫婦のおかえりのルーティンをしろって事だから、そろそろとゆっくり近付いた。いつものような、触れるだけで良いんだけれど、今日はなんだか嫌な予感がする……っ!
悟の脇から背へと私は腕を回す。彼からも腰や背に回された両腕。すぐにキスをしそうな所を抱き寄せていた片腕を引っ込ませ、即座に悟の頬や口元を抑えてそのままぐいー…っと押しやると口元を隠されながらも不満げ。
「もー、ほらまたネコちゃんみたいに嫌がってー!ただいまのチュウさせてよっ!チュ~!」
『するかっ!
……ばっか、子供達全員見てるでしょ。頬くらいにしなさいよ!』
小さく彼に聴こえるように伝えたら、私の手のひらに触れた唇はもぞもぞと同じくらいの声量で「やだ」って拒絶してる。
私を引き寄せる力は少し強まり、腰に回された手が肩甲骨辺りに移動して彼と私の上半身の距離を縮めようとしてくる悟。何が何でもただいまのキスをしたいらしい、なんだこのネオジム磁石はよお…!子供達が見てんだぞ、この現状をさっ!
ふぎぎぎ…、と突っ張るも決して距離は離れることなくむしろゆっくりと縮まるのが恐怖。彼の片手は余裕と見たのか私を背後から引き続き引き寄せながらも、片手で唇を隠す手首を掴まれて。
悟の唇というか頬に手汗を残しながらも剥がされた手の下はにっこりと乾燥知らずの艷やかな唇が現れる。
「諦めろよ、ただいまのちゅうは子供たちの前でも許されんの」
『いや、だからってぇ…っ、このっ!……力つえぇなこの……っ、まっ…!
んむ~~~~!!』
私の抵抗も虚しく、任務で疲れている素振りも見せない彼はじりじりと顔の距離を縮め、舌も唾液も空気も吸い取って行くように深追いをする口付けをした。
この後待ってる約束された宴の前の玄関での前菜に満足したのか、私の拘束を開放し唇も離してくれたけれど……。
『はぁー…はぁー……』