第39章 七つの鎹
文句言いたげな、お楽しみを後回しにされた子供たちもしぶしぶ家事を手伝って、カチャカチャと洗い物を協力して済ましてさ。濡れた手をタオルで回しっこで拭いてく姿、ようやくこの時が来る、とそわそわした子犬・子猫みたいな子供達の隙を見て、そろそろ主役を呼ぶ頃合いを見た私は携帯を取り出した。
……悟からスタンプがめちゃくちゃ来てる。暇だったんだなあ……、と既読を付けた瞬間にシュポ、と喜ぶスタンプが送られて来たし。
斜め上の毛糸で壁から壁へと緩い弧を描いたガーランド。そこにクリップで一文字ずつ丸く切り抜かれた色紙に、たどたどしい幼い文字での"パパ40歳おめでとう!"という、こうもでっかく、ワンステップ年齢の垣根を越えた新たな称号には彼であっても心の奥でちょっと傷つくかもな~……なんて。
子供達皆で考えた、大人にとってはちょっと棘のある無邪気なサプライズの飾りを見て、悟に『準備出来たから帰っておいで』とメッセージを送った。速攻"一分以内に帰る!!"と予告をしている待ちぼうけの悟。
準備完了してすぐだしあまり早すぎると勘の良い子には怪しまれるんだけどなあ……。
携帯をしまい、鎹を手招いてほっぺたをむにむにといじっていれば玄関でガチャガチャと物音がする。一分も掛かってないだろ、あんた自身にヘイストでも掛けて来たんか??
そのガチャガチャ音に子供達はばっ!と一斉に玄関の方向を向いた。
「……帰って来たんじゃないの?」
「皆、行くよ!小悟も遊んでないで行くのっ!ほらほらっ」
ばたばたと駆け出していく足に、私の手を握る鎹が見上げてる。
「……いこ?」
『ん、行こっか』
我が家の中で一番背の低い彼女の引っ張る手に着いていく。わざとだろうね、逸る気持ちを抑えながらも鍵を開けた後はいつも通りにドアを開けた音。「今日もお仕事疲れちゃったな~」なんていつもなら言わないわざとらしい小言が大変芝居臭い。
おかえりなさーい!の元気な声の前に悟はひとりひとりの頭をひと撫でしていき、私を引っ張っていた子も彼の脚元でズボンの生地を掴みながら撫でられてる。
ひとりひとりに名前とただいま~って言葉を掛けながらの頭を撫でる彼。その主に下を見る視線は上げられ背筋を伸ばし、手を広げてこっちを見ていた。そう…例えるならば、トトロがさつきに飛び込んでこい、と腕を広げて待っているような……。