第39章 七つの鎹
『悲しい想いは断ち切らなきゃ、じゃん。初代が許可をしたから、この子に力を譲渡してもらって、権力は一時的に私の母に移る。私が死んだらその領域内の権力は私に渡してもらって……。
皆を少しずつ、逝くべき場所に還して行こうかなって思ってるの。私以降の子孫は死後領域に来ないようになんとかしてさ…』
……ははっ、とんだ自己犠牲だ。
死後、見えない所で彼女が生きた証を、革命を起こしたとしてそれを誰が知り得るっていうんだよ……。
その流れだときっと…最期まであの夜の来ない、同じ時のままの領域に取り残されるのはハルカ。ひとりぼっちになるんじゃねえのか…?
僕はその落ち着いた顔を見る。ハルカは授乳中の鎹を微笑んで見ていた。そんな彼女に震えそうな声を僕は掛ける。
「オマエは、どうすんの」
『……最期まで抗ってみるよ。きっと時間の流れがここよりも遅いし、悟が何度も生まれ変わった後かもしれないけれどさー……あの空間が消えるまで、なんとかする』
僕の服を掴むのは夕陽。何の話かきっと分かっていないだろうけど、この話にはこの子も関わる事だ。死後、領域内に行くことを拒絶されるって事はこの子から春日の血族から新たな呪術師としての進化をしていくって事。
黙りこくる僕たち夫婦と長男・長女。それから現時点での末っ子の鎹。
たくさんママのお乳を吸ってお腹いっぱいになったんだろうね、おっぱいを飲むことに満足して、頭上で将来の話をしてるなんてなんも分からずに……。ミルクまみれの口元を晒してむにむにと笑顔を見せつけるように濡れた唇を動かしていた。