第39章 七つの鎹
ハルカの視線は鎹と名付けられようとしてる赤ちゃんへ。
美味しいんだろうね~…、夢中になって飲んでるのは顎の動きで分かる。確かに小さな子どもも好きになりそうな味だった。僕も嫌いじゃないよ?あんまり飲むとハルカにもお腹にも怒られるから禁止令出されてるけど。ミルクが出なくてもそれでも僕は吸いたいんだけど(ベッドの上とかで)
「いくらなんでもさあ~……鎹はないだろ。この時代にそぐわないっつーか、その……」
はっきり言って初代の名前だろ。その僕が一番言いたい言葉を出さずとも、七人の子供の母親であるハルカは僕に視線を向けた。決意の籠もるまっすぐとした視線。
『悟、私は春日家の呪いを解きたいって思ってる。初代ももう、始めの頃のような禪院家に向ける怒りとか憎しみといった感情も今じゃ分からなくなって、彼女は術式の譲渡を望んでるんだ…』
譲渡を望む、という事は自らが領域内から手を引くという事。しかも領域の長であった彼女が引くとどうなるのかは未知数。
そもそもだ、術式の譲渡をする相手の命を削るんだ。そんな事……。
僕は彼女の身体に掛かる布団の生地を掴み、握りしめる。
ハルカはこれ以上は譲渡は出来ない。領域すらいけなくなる、というか死ぬ。
じゃあ……。
──考えられるのは初代の名前を今から継ぐだろう、彼女の腕の中の生まれたばかりの娘。この子に負担が行くって事なんだろ…。
「鎹が望んでも…その子が望むとは限らねえだろ…っ!ハルカ、どうしてそんな事を勝手に決めてんの?僕に黙って勝手に守る力だと言って命を削るし!」
冷静に言いたくても、家族を危険に晒す事だ。ハルカであれ、その子であれ。
熱くなりすぎないようにしてもどうしても声は荒くなっていく。子供達の表情は妹が増えた喜びから不安そうな顔になってるのも分かった、それでも僕は…!
ハルカは僕を真っ直ぐに見てゆっくりと首を横に振った。