第39章 七つの鎹
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隣を見上げれば頬を膨らませむすっ、とした明らかにご機嫌ナナメの悟。ここで「もういい!」ってどこかに行ってしまわないのは彼が側に居ないと実行できないのを、ちゃんと仕事として私の意見を受け入れているって事。嫌だという感情を顕にしてもそこはしっかりしてるんだなあ……なんて思いながらもここでちょっかい出せばこじらせてしまう気配を感じる…。
彼の機嫌についてはそのまま時間経過で不機嫌が自然と薄れるのを待ちましょうか。
悟から進行方向をしっかり向き、京都校敷地内のとある建物内の地下、収容所へと私達は黙って向かってる。
東京で尋問からの拷問があるように、日本国内で代表的な二校があるならこちらでも"そういう施設"があるって事。こっちで捕らえられたという呪術師…いや、今では非術師達を呪術で危険に晒して危険な呪詛師となってしまった人物と会わなくちゃいけなかった。だからいつもの出張は二週間っていうけれど、今回は一週間という期間で拷問を……ついでにその滞在中のこちらでの怪我の治療や一部に持たせたミサンガの浄化などをしていくって事で。
ずっと黙ってた(いや、あえて放置してたんだけど)悟がようやく口を開く。開口一番に、はーあ!ってわざとらしいため息を吐いてさ。
「なーんでホイホイ受けちゃったのかな~?僕はヤダって言ったじゃん」
『いつもこの手の話が来る度に悟はヤダ、から始まるでしょ…それからこのやり取りもセットで。仕事は選り好みするなというけれどさ、私のコレは治療・拷問の許容範囲の仕事だもん』
悟よりも少し前に出るようにつかつかと進めば、私の腕を掴んでそのスピードを抑える彼。服越しに伝わる彼の手の熱が熱い。蝋燭の明かりのみで薄暗い通路、隣のアイマスクの彼を見上げる。やっぱり不機嫌フェイスのままでへの字口は変わらず……。
「それはそうなんだけどさ?でもオマエの術式は拷問に使う度にオマエ自身をすり減らすだろ。拷問でも一番簡単な爪だけでも、少なからず気付かない程度に血を消耗してんだぞ?」
『んー…まあそうだけど……』
「今はお腹に子供が居ないから~って、調子に乗って血を減らし続ければ時に命にも関わる。チリツモだよチリツモ!舐めてたら死ぬぜ?
ハルカってここんところ尋問よりも拷問の時激しく責めてるし?」
『……激しくねえよ??』