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【呪術廻戦】白銀の鎹【五条悟】

第39章 七つの鎹


私の手が鎹によって動かされる。優しい手付きで眠る娘を何度も撫でていて、私達の居るソファーから少し離れた位置から小さな物音がこちらに近付いてくる。そちらへと顔を向ければ、次女がにこにこーっと笑顔で小走りにやってきてはソファーの空いたスペースに乗っかり頭を向けた。
女ばかりの一族の長となったって事もあり元より子供が好きなんでしょ…私というよりも鎹の意思でその頭も撫でる。

『"ハルカ、次に生まれる女に私の術式を譲渡しようか。今居る子に情はあるだろう、次の命に命運……という訳ではないが、禪院の血の十種影法術が引き継がれる…、僅かではあるが強い子に、生き延びる術を持つ子孫へと出来上がるとは思う…"』

えっ、と全ての動作を止めたくても私の手は撫でる事を止められない。
四歳の長女は夢の中。三歳の次女をひたすらに優しく撫で続ける私の手を借り、鎹は私の唇も借りて言葉を続ける。

『"私が春日の長という立場から降りる。これまで死にゆく一族達できっと、終わらせる事が出来るのはリョウコかハルカなのだろう。それ以外は私の意思をただ継いでいくか、欲の為に言いなりになっていくか……私の居なくなった後はリョウコに一度座を預け、オマエが死んだ時に正式に長となって取りまとめてもらう"』

『首がすげ変わったんじゃ変わらないんじゃないの…?』

『"私よりも知恵が働くのだろう?悪知恵、と言えば良いのか。代が進めば思考も柔軟になっていく。私達は古きもの……若く行動的であるものに従うのが一番だ"』

私の自問自答するような声だけが聴こえる。テレビも音楽もなく、騒がしい悟は疲れからずっと眠ってて私の側にやってきた次女もいつの間にか寝落ちていた。
その寝顔を見た後に手を引っ込める。私だけの意思だから、寝かしつけたら充分だって思ったんでしょ。

『"私はずっと前に既に欲しい物は手に入れていた。手に入れたとしても死んでしまって、もう私の想いなど伝えられる事はない。
私はとっくの昔にこの一族を見放すべきだった……"』

降ろした鎹は私から領域へと戻る際、"嗚呼、父上……"と呟くように言葉を残して去っていってしまい、今度こそ完全な静寂が広い部屋に訪れた。
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