第39章 七つの鎹
私が思っている事は、"その春日家は血を繋いでいくに値するのか?"という事。
疑う思考は降ろしている彼女にも共有され、撫でる手は止まり、私の口元も今は私だけのものとなってる。
『──鎹。今も変わらず禪院家が憎い?』
私も実感した、あの領域内での時の流れはとても長く感じた。その現実では短く、領域内ではとても長い時間の中でたくさん考えたよ……それまでの未練や後悔だとか。
ヨミまでの命のリレーは禪院家が憎かったとしても母リョウコからの世代に替わる頃にはその想いは変わっているかもしれない。そう途切れた呪いの籠もった一族はこの先はどういう方向に向かうの、とかね。
『"今では…分からなくなってしまった"』
『そうだろうねー……あの領域内は物は少なくても時間だけはある。私も少しの時間死んでたし、生きていながらに魂は領域にあった。ものすごく色んな事を考えたもん』
はははっ…と小さく笑って、娘が起きないように注意を払いながら初めて鎹に会った頃とは別人に感じる程に会話を楽しんでる私を感じる。この人も少しはまともな考えを持ってるのかもって。
『"私がひとり、父を想う余りに始めた事。それを子らが引き継ぎ取り返しがつかない程に子孫たちに当事者でない憎しみを抱えさせ、生きながら…そして死んだ後も領域内で膨れさせ続けてしまった。
私の想い以上に暴走したものはもう、春日としての始まりなど無かったように……金を得るもの、子を犠牲にするもの……。
一族は欲のままに利用されるようになりいつの間にか出来上がった領域の長に私はなっていた…。私が導き抱えた子孫の命達は多すぎてもう、私ひとりの手には負えない"』
『……そっか』
その繋がった命の果て、私やこの子、いつか生まれてくる五条家の末の女として生を受ける命がやがて行き着く先。
あの空間で死んでもその先が無いのは苦しい。いつ終わりが来るかも分からない輪廻転生を赦されない命たち。無限地獄というべきか。
終わらない死後の世界で暮らすなんて、まだ術式が剥奪されて追放された者たちが羨ましくも感じるかもね…?
……せめて、私以降の子たちが死後あの空間に捕らわれないようには出来ないのかな…。