第39章 七つの鎹
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繁忙期の呪術師ってのは人権がないよねー。
今日も僕らは右へ左へと大忙し!僕自身もいつものように任務が一日の内にいくつも重なって、普段と変わらずそれをひとつひとつ消化してってさ。
でも心の奥では嫌な予感っていうの?勘?そわそわしてたんだ。ハルカがさ…僕の大好きな妻がさ、出産の予定を過ぎてもなかなか生まれそうな気配が無くて、ちょうど昨日『急に生まれるっていってこの時期の硝子さん引き止めるのも迷惑だろうし、産婦人科に行こうか?』って話が出たばっかだったんだけど…。
急っていうか来るべき時時が来ちゃったって言うのかな。ハルカからの破水が起こったという連絡を移動中の車の中で受け、丁度祓う為に向かってた任務を急いで終わらせて……。
今日はその後残り二件の僕に振り当てられた任務があったんだけど、急遽他の呪術師に回した。
だって新しく家族を迎えるシーンに立ち会うんだ…!泣いたり、叫んだりして痛みの中で堪えて堪えてこれまでに三人無事出産し、また二人諦めた命がある。僕が蒔いた種っていうか、守りたい・独り占めしたい相手だからこそ彼女の側に居たいの!
別にその残りの仕事も特級案件ってワケじゃなかったんだし、別の等級の呪術師でも充分だろ、と他の呪術師に電話で回せば、ベテランの補助監督生は文句言いたげに言葉を詰まらせていたけれど携帯でのやり取りじゃこっちで一方的に切ってやった。はい、これで向こうにパスは渡したモンでしょ!
この時期子供たちに手が回らないからとマンションに預けていたのを急いで回収し、産気付いたハルカの元に親子して駆けつけてさー…。
すやすやと眠る彼女の側で待っていた硝子が元気な双子を預かっていて、四人で新しい家族を迎えながらハルカが起きるのを待って。
せっかくの親子の時間を過ごしていたら、それを邪魔する不届き者達の連絡。ったく、上層部からの呼び出しってぜってえ楽しい事、ゼロじゃん。喜怒哀楽から"喜"と"楽"を引っこ抜いた、負の感情しか湧かねーんだけど。
──背後にハルカと子供達の小さな会話を聞き、僕が進む毎に家族達の呪力が遠ざかっていく寂しさ。
もう少し、側に居たかったのにな……。人生のビックイベントを楽しむそんな時間さえも許しちゃくれない。さっさと会って、さっさとハルカの元に戻ろう。
「……チッ!」