第39章 七つの鎹
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順調だった日常の中で忙しい時期に陣痛が訪れてしまい、ここにマリアでも居ればまた自然分娩なりどうにかなっただろうけどここは東京。しかも呪術師・補助監督生など特に忙しい時期で調査も祓いも真面目に仕事に取り組んでいれば、危険と隣り合わせのこの世界。どんなに気を付けても怪我は避けられないもので、そういった怪我を治療出来る呪術師といったら限られたもの…。
私が電話をした事で忙しそうだった硝子の時間を急遽開けて貰い、医務室から部屋へ駆けてきた硝子に連れられて医務室横の個室へ。そこでは硝子が仕方がない、と医療器具を現在用意してる真っ最中。
今回は双子。前回・前々回は健やかにお腹で育たなかったのが今回のふたりはきちんとお腹の中で成長してくれた。産むのに適切な時期、予定日を数日過ぎての事だった。
そんな医療に長けた硝子をこの繁忙期に長時間独り占めすることは躊躇われる。だからといって私がこれまでに三人産んでるからひとりで頑張るにも今回は未知の領域の双子。どうすれば良いものか…と悩んでいたら予兆が出てしまってさ!
『なんか、もう……すいません…』
今回だけ高専内じゃなくて一人目を産んだ所にすれば…とか考えが定まらない内に結局こうなってしまい申し訳なくなっていれば準備が出来た硝子はふう、と息を吐いて微笑む。
今回は帝王切開をする事になってしまった。
……既に彼女の目の下にはお疲れメーターが。
「そろそろだとは思っていたさ。
じゃあ、ちゃっちゃと腹を切って取り出すから。目が覚めたら自分の術式で直ぐに治療しな」
大きな病気はした事の無い私。骨折とかならあったけど、開腹手術ってのは初めて。
眠っている間に終わると言われたけれど……。
不安な中彼女に全てを委ねる。ひとつ頷くと現れ始めた変化として抗えない微睡み。
「……楽にしてな。あとは私がやっとくし、双子は後から来る五条に渡しとく」
『……お願い、します』
痛みの中でふっ、と寝落ちするみたいに私は意識を手放した。
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──
……。
側で泣き声がする。まだ幼い、生まれたての声……。
それから嬉しそうで困ったみたいな悟の声。男の子、女の子……ああ、うん。蒼空達の声。兄弟して楽しそうに声を抑えてるんだろうけどそれでも抑えきれていない、きゃっきゃとはしゃいでる楽しそうな皆の声が聴こえてくる……。