第39章 七つの鎹
昨日帰ってくる予定って事で私の任務に当てられたのは虎杖。もしも昨日帰って来ない場合は次点で野薔薇がこの任務に当てられる予定だったらしい。
虎杖は頬を人差し指でぽりぽりと掻き、へら、と笑った。
「んー…でも、ちゃんと風呂入って飯食って…早めに寝たんだぜ?」
『でもさ、助手席に乗り込んで速攻落ちてたもん、疲れが取り切れなかったんじゃない?睡眠不足には仮眠、大事だよ』
私のストレッチを真似するように虎杖もアキレス腱を伸ばしたりとしてる。にこにこと人懐っこい笑みを浮かべてさ。
「ハルカかなり気合い入ってんじゃん、任務もしかして久しぶり?」
『まあね、一年だった時が高専外での任務が多かったってくらいで今じゃ引きこもりだよ。
身体は鈍るし、屋内も意外と忙しいし……。たまに真希さんに遭遇すると引っ張り出されて稽古イベント発生するし』
「ははは……」
通路でのエンカウントで回れ右しようが、気配察知してのダッシュしても肉体派の彼女には勝てる事なんてなく。大体追いつかれて肩を掴まれた瞬間で強制イベントを察してる。抵抗も無意味ってね!
緊急の医務室召喚なら見逃してくれるけどいつもいつでも緊急ってワケじゃないからさあ……。
「俺もたまーに相手するんだけど、パイセンってマジで手数多いもんなあ~、ハルカがそういう顔になるの分かるわー…」
『ま、体力落ちつつあるっていう理由もあるけどさー…私もアラサーだもん、あと二年で三十よ?急な運動で肉離れとか筋肉痛とかヤじゃん、だから準備運動大事、だよ?』
ふう、と腰に手を当てて、悟や子どもたちを考える。今日は悟が三人の子供を預けに行ってるんだ。子供を預けた後は補助監督生の送迎で今日もたくさんの任務を抱え、一つずつ対応してる、と思う。
……少し遡る話。私は悟との間に四人目の命をお腹に授かったけれど、それは妊娠中期に至る前にお腹に実り切る事無く、その子は外へと流れ出てしまった……。
一体何が理由だったんだろう?検査を受けたり、当時の生活習慣のひとつひとつに理由を探していた私を悟は責める事なく、"また次があるしきっと次の子に譲ったんだよ"と優しく慰めてくれた。
体だけじゃなくきっと心も疲れてるんだって彼は私の仕事をしばらく休ませてくれたけれど普段のルーティンみたいな仕事をしてないとやっぱり何かしたいって気持ちがあって。