第38章 芽吹くもの、芽吹かぬもの
恐れていた追加の残業もなく、寮の部屋へと帰り悟と向き合ってご飯を食べている時に、午後に報告書で見た単語をふと思い出した。
食卓で私の目の前に座る悟はハムスターみたいに片方の頬を膨らませもこもことその頬袋を動かしながら、悟が使っているものとは違う、ひよこちゃんがプリントされた可愛らしい容器に入っている離乳食(市販品に柔らかく煮込んでとろとろに調理した野菜も追加してる)をスプーンに小さく取って、隣のベビーチェアに座った蒼空に食べさせてる。
大きめな白ポメが子犬の世話をしてるみたいじゃーん……、と面白さを感じちゃって。片手でぱんっ!と口を覆い笑いを必死に抑えこんでみる。口元を押さえなかったらンフッ、とか変な笑い声出ちゃいそうだもん。
「……あ」
そのシーンを悟に見られたモンだからさあ……。ご機嫌にご飯を食べさせてた彼の目は大きく開かれ、頬袋もスリムになった悟の口は驚きでぽかんと開けられていた。
「──オマエ、まさかとは思うけど、つわり?」
『ンッフ!……ちげえよ??妊娠はしてない、と思うんだけど』
「紛らワシじゃん、JAROに言うぞ~??」
『言っても相手されないだろ。
いやあ、悟と蒼空が並んでるとさー……ほんっと似ていてね…?』
やば、五条家の血強すぎでしょ。そっち(種)まで最強狙ってんの??
似てる、という言葉にたちまち気分の良くなった悟は蒼空が口にした離乳食がしっかり食べられているのを見て大げさに褒め散らかしながら次の一口をスプーンに取ってる。
「おー、ちゃんと食べられまちたねー!いっぱい食べて大きくなってくだちゃいね~?じゃないとパパみたいになれまちぇんよ~?」
「んまーっま!」
手足をばたばたとさせて、美味しかったのか悟の持つスプーンをキラキラとした目でガン見してる。既に口をぱか、と開けて催促してるみたい。
吹き出しそうだった口に当てた手を退かし、親子のやり取りをじっと見守ってみる。うちの子、ほんっと可愛いじゃーん……、なんて私も人のこと言えない親馬鹿なんだろうけど。
「あはっ、食い意地張ってんの誰に似たんだろー?僕ここまで猫ちゃんみたいに目で追い回すような食い意地張ってないしな~?一体誰だろね?食いしん坊な遺伝子の元は?」
『……チッ、悪うござんしたね!』