第38章 芽吹くもの、芽吹かぬもの
いつもいい子でいられない父親のその背に待機した息子を見れば、ぷっくりとしつつ悟の多くを引き継いだ顔で笑顔を見せてる。
どこまで分かってるのかは分からないけれど窓から手を出し伸ばした私を見て、への字口の悟が少し屈むとその天使に私の手が届く。
髪と頬と小さな耳を撫でたらくすぐったかったのか「きゃははっ」と笑って小さな手で私の手を弱い力でぺちぺちと叩かれちゃった。
「んはっ、ご褒美じゃーん」
『ご褒美て。
……ほら悟、行ってきなよ。今んとこ任務の追加をしてこない、上の気が変わらないうちにさ。追加の任務無ければ今日こそ早く帰れるよ~?』
「ん、そうだね、ちゃっちゃと終わらせて家族皆でゆっくりしようか」
悟の見ている間に窓を上げ、ロックをしたのを確認後、そこでようやく背を見せて、寂れた蔦の絡まる廃墟へと向かっていく悟。
任務に悟が行ってる間にタブレットで他の任務の報告まとめを眺めながら、静かだな…、と後ろを振り返るとチャイルドシートの中ですやすやと夕陽が眠ってる。
報告書、数日分見てないんだよなあ~……、と他の呪術師達の報告を見ていると高専の学生の他に七海などの高専を介して任務を受けている呪術師の名前があるんだけれど、割と最近から新しい名前をいくつか見るようになった。
以前硝子が言ってた、呪物の受肉体。
宿儺の指を取り込んだ虎杖とは少し状況・状態というか、肉体の主の姿ではないらしいんだけど、血塗、壊相、脹相の九相図三人兄弟が現在高専側に協力をしている…のだとか。
資料を見れば脹相については私は一度遭遇してる。この前の急に医務室に沸いた(多分彼の能力じゃないのにぬるっ…と出現してた)自称お兄ちゃんの事。
虎杖は一人っ子だと聞いたんだけどなあ……。東堂も虎杖をブラザーっつってるし、虎杖、変なフェロモン出てるんじゃないんだろうか…?
濃ゆい面子に追われる虎杖を思い出しつつ、タブレットの文字列に視線を戻す。いくつかの報告書を見てると、その新しく並ぶ名前のうちの一人、壊相と野薔薇が向かったという報告書に今まで見たことの無い文字列を見た。
『ごくのばん……?』
極ノ番、とはなんだろう?私はまだそれに触れていない。呪術の授業で後々触れるんだろう知識だろうけど言葉も初めて知った…。
ひとり呟いたその単語は理解も出来ぬまま、私の耳にだけ届いていた…。
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