第38章 芽吹くもの、芽吹かぬもの
まだ最後まで作り終えていない、途中のミサンガ。このまま手を離したらほつれちゃう可能性。スラスラ出来ない分、やり直しもキツいなあ……。
なにか止められるものを探せばここはデスク。筆記用具は多種多様、色々と揃っているからそこからひとつクリップを手にとって、泣き声に急かされるように急いで編み途中のミサンガを固定し、手を離す。
デスク上にちょろーんとした作りかけのミサンガもどきがほつれる事なく手放しで置いておける事を確認後、私は椅子から立ち上がり、直ぐにベビーベッドの元へ向かった。
「うっ、うあっあ…!あーん!」
『はいはいちょっと待ってって…』
泣いていたのは娘の方だった。夕陽が起きてしまいエンジンが掛かり始め、その隣の蒼空もぱっちりと水色の瞳を開けて私の方に向けている…泣いてはいないけど、ふたりで一気に泣かれたら悟も居ないし私一人で泣き止ますのが大変なんですが……?と、先に娘を抱き上げて息子の方を見ると激しく泣く娘はそのまま私に抱き上げられ、ベビーベットのお兄ちゃんは妹よりも私の顔を静かにじっと見上げてた。
『ほー……すでにお兄ちゃんしてんのかな…?いい子だね~…』
その青い瞳はやや潤み、泣きたい所だけどここは妹に譲ってやる、的な。
微笑ましいなあ、と夕陽を抱きかかえてあやして、なかなか泣き止まないからこれはおっぱいの時間か、と椅子の方向を向いた瞬間だった。
いつの間にか人が医務室に入り込んでる、その男の顔を振り返ってすぐの間近で見てしまい、私は驚いて動きを止める。
……誰やねん。
「兄は兄弟が生まれた時に兄であると自覚するものだ」
『どなた???』
ぬる…っ、というか、振り向いた背後にいつの間にか居た黒髪ツインテールの男。初めて見る顔だな…と眠そうな表情の男を見る。不審者かな…?とデスクに座ってるサトールを見た。ここは悟へ通報してもらう…?
ゆっくりとした足取りで私の側を通り過ぎてベビーベッドの側に寄るのを、私は片手でしっかりと夕陽を抱きしめ、もう片手で蒼空に近付かないように腕を男の進行方向に出して制止する。
『あっ、ちょっと待って下さい!』
「……なんだ?」