第38章 芽吹くもの、芽吹かぬもの
そして私が譲渡してもらったもう一つの力、領域内で交渉して鎹にも頼んで手に入れたのは、切り離した後にも式髪としての効果を残せるという、呪具・呪物を作るための能力。
かつて硝子は「髪を切ったり、抜けたりした直後までは残っていても毛髪の呪力はその後霧散してるみたいだ」と結果を教えてくれた。多分、血とか肉体だとかそれがトリガーになっていたんだろうけれど…今回手に入れた術式は術者の身体から離れても私の呪力が留まる、つまりは離れた場所・タイミングをずらしての術式を発動出来るという、見えない所からの支援が出来る力になる。
ただそれは春日家の人間のように何度も吸っては発散、というわけにはいかない。けれど、ほぼ使い切りの怪我の身代わりが出来るんだって。
……そう、領域内でほっとしたような声色で私に教えてくれた、私よりも若い女の子が消える前に言っていた。
私が守るために選んだ一番の理由として、生まれた時から白に染まった頭髪の女の子の存在があった。それは今もすやすやと小さなベッドでお兄ちゃんと眠ってる、私と悟を繋ぐ小さなレディー。
私自身何度も死にかけ亜麻色の髪を何度も白に染め上げてた自身と重ねて、この子は産まれてすぐに死んじゃうんじゃないかって不安にかられて出産後に取り乱してしまったほど。
……お恥ずかしながら硝子や悟に迷惑掛けちゃったよなあ…。ぽりぽりと耳の上を誤魔化すように掻けば静かな空間でその音だけが鳴る。
しっかりしないと、と心に決めて悟に相談せず、独断で譲渡して貰ったのが使い方を知りながらまだ使っていなかった術式。我が子を守るための呪い(まじない)としてのもの。
その術式は元々は作り方を息子に教え、その息子は男児という事で本家を離れる運命に従って出ていったんだって。
何を感じたのか、どんな恨みがあったのか。本家を呪うために髪と、それでも込める呪力が足りなくて我が子の子供の骨を足して呪物を作っていた。まじないは本家を呪う為ののろいへ、春日一族の"かんひも"が作られる起源に変わって。
本家には"コトリバコ"が、分家には"かんひも"が。先に廃れたのは分家の呪物。隠されたまま、ついこないだ消滅したのが本家のコトリバコ。憎しみの呪物は春日の血族にはもう無いことを祈りたいけれど……。
それが私のこの受け継いだ、領域から能力の譲渡と共に消えてしまったとある女性の話だった…。