第38章 芽吹くもの、芽吹かぬもの
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『……さて、と』
先日買い物で街中にお出かけした際に、手芸のお店に用事があると彼に着いてきて貰い、買ってきたいくつかの材料をひとり医務室のデスクに並べる。
今は医務室に怪我人も居ないし悟も任務のために高専に居ない、そんな静かな室内。窓辺には仮ではなくネット通販で届いた、頑丈なベビーベッドを設置して貰いそこには元気すぎるお兄ちゃんの蒼空とこれから先どんな子か判明していく妹の夕陽がふたり並んですやすやと静かに眠っている。
こう静かに眠っていれば子供の世話も今は特にやる事がなく、このもったいない待機時間に事務作業をしても良いんだけど。子供ふたりが起きた時は忙しくってやってられないんだなあ……。
この静かでやるべき事に追われていない時間、どうしても色んな事を考えてしまうよね……。
そんな事を前々から私は考えていた。
例えば、この界隈で生きるって事。呪術を使う事とかさ…?
術式って呪術師の数だけ様々なんだ、と以前悟は座学の時に言っていた。私は呪術を扱う事が出来るのならばせっかくなら呪いとバチバチに戦えるように強くなりたいって思っていたけれど、その考えはいつの間にか戦う事(攻める事・追い詰める事)から守る方にシフトしていて、領域内で自ら選ぶ術式の譲渡でわざわざ守るための力を選んでた。
最初のヨミの時は選ぶことも拒絶する事もなく、不可抗力に押し付けられた力みたいなモンだったけれど、実際にその力を持ってて良かったって思ってる……あの時、悟の元許嫁から私と子供を守ることが出来たもん。
不幸中の幸い、というかこの、追放したヨミから剥奪した呪術がなければ私達はこの場に……、もしくは娘の命はこの世に産まれていなかったかもしれないんだ……。
私が持っていたものと違う、二つの譲渡された力はそれぞれが守るために特化した能力。
元々春日一族は身代わりの一族というのだから、そういったあらゆる守る力がある。もちろん、攻める事で守るっていう脳筋も一部居るよ?
ヨミは生前春日家を覆う程に呪いの来ない結界を作り出して常時守っていたけれど、私の場合は縛りもない状態で僅かな空間だけ。それだけでも助かる命が確かにあった。お陰様で私の子孫、一族の末裔の命を守れたんだから本来の使い方が出来たって事よ……。