第38章 芽吹くもの、芽吹かぬもの
「……ハルカ。どうして僕に何も言わず、相談も無しに術式の譲渡なんてして貰ったの…?オマエが先祖達から力を受け取る度に呪力の容量は引き継いだ力の分、埋まるんだぞ?今だって領域展開出来るギリギリまで減らされてるだろ」
白髪化が半分ほど過ぎれば、その溜めた呪力を対価に領域に行くんだ。前回のヨミ程度ならまだしも今回はヨミよりも少しばかり使い勝手の良さそうな"いいもの"を貰ったらしい。前回と今回をあわせて半分までは行かないけれどリセットしたての式髪の三割超えの白髪化はやけに目立った。
その髪を指先でくるくると弄ってハルカは微笑む。
『これで夕陽を守ってあげたいんだよ』
「そんなもん勝手にすんじゃねえよ……僕が守るから…僕が、ハルカも子供たちも全員を守るから余計な事をして僕よりも先に逝くような事をしないで」
『……』
「愛してるんだよ……、オマエ無しじゃ僕は…」
どれだけ僕が愛してると言っても、守ってあげると言ってもハルカはこうやってひとりでに強くなろうとしちゃう。
彼女の血族は皆、早めに死んでいる。呪術師ってのはそもそも危険と隣合わせで死ぬ事は珍しくないけれど、春日家と言ったら身代わりの一族っていうのが有名なんだ。自分がどうあれ、他人の為に死ぬから、ハルカのこういった勝手な行動は僕の胸を締め付けた。
──こういった行動は嫌な予感しかしねえんだよ…。
今更もう現場に行けないように僕がハルカの手足をもぎ取ってしまったとして今ではもう、あのホコ天で出会った頃みたいなやわな彼女じゃないから、自分で治して自分の脚で好きに行動する。
まだ、子供を作らなかった頃の閉じ込めてた頃の方が僕の言うことをしっかり利いていた方か……。
しっかりと裸眼でハルカの瞳を見つめても、見つめ返した彼女の綺麗な瞳には僕の言葉じゃどうすることも出来なさそうな決意が宿っていた。