第5章 "好き"が止まらない!
38.
ゆさゆさと体が揺れて私は否応無しにゆっくりと目を開ける。
もう朝かあ……、
ゆさゆさ。ゆっさゆっさ。
ゆさ…ゆっさゆっさ。
あー…しつこくてうっとおしい。起きます、起きますよ!とその存在を手で押した。むにーっとした温かくも柔らかい感触を手の平で感じ私は瞼を開ける。
……朝っぱらから目に眩しい男。
柔らかいものは悟の頬で、手の平で押していた所だった。
その眩しい顔面偏差値の高い男は少しばかり困った顔をしてる。
「そんなに突っぱねなくても……」
『ごめんて……うん。おはよ』
「ふふ…、おっはー☆」
おっはー、と時代を感じる挨拶をされて私も遅れておっはーとだけ返す。確か、兄貴が一時期言っていたから世代的な挨拶なんだろう。
悟を突っぱねた手を引っ込めて上半身を起こした。隣の悟も上半身を起こしている状態で、ふあ~…、と大きな欠伸をしている。
私は寝癖が酷いだろう髪を掻き上げた。その掻き上げついで、自身の毛先近くを指に絡めてまじまじと見る。反転術式を使っているおかげか、白髪部分は結構無くなって地毛の割合が増えてきた。
それは嬉しい事だけど、呪術を使う身としては攻撃手段の火力が減る事。人から痛みを貰うのも、呪いを祓うのも良いバランスを取っておかないといけない。
手の中の二色の髪を親指で遊びながら私はこの大変面倒くさい生と死のバランスに常に翻弄される一族の宿命を眺めていると肩にドンッ!と痛みを受けてしまった。
「ジタンの頭突きだ!ウェーイ!」
私がぼーっとしていたからだろうな、賑やかしの悟が居ても立っても居られず私の肩に頭突きをしてきた。
もうっ、訳が分からない!朝から元気すぎでむかつきますわっ!
とっさに肩を押さえる私と起き上がりこぼしのように体を起こしてにたにたと笑う悟。
『いったぁ!』
頭突きをされた肩を擦り、してやったりという顔を悟を見る。朝から28歳児は健やかそうで何より。
良く乾かさなかったんだろうか、髪が面白い事になっていて頭上を見て私は笑ってしまった。
『ぷぷっ!その寝癖すっご!』
「えー?どこぉ?わっかんなーい」
首を傾げ、へらへらとする28歳児。もふもふとした中に鉄腕アトムというか蘭姉ちゃんというか、寝る前にワックスで固めたの?という程になっていた。どんな寝方すればそう尖るんだよ。