第38章 芽吹くもの、芽吹かぬもの
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八月の十日が過ぎ、ハルカの破裂しそうなくらいにパンパンなお腹は予定日を過ぎたというのになかなか産気付かない。
前回の蒼空を産んだ時はさあ、順調に赤ちゃんが母体の中で育ってる中でのちょっぴり早めの出産だった。それで初産って事もあり通っていた産婦人科で彼女は息子を産んだんだけど、髪色の目立つ彼女……その産婦人科に通う姿を何度も見られているという事もあり、ハルカや子供を狙う者が病院の近くに張り込んでいた。
僕が居るとはいえ常に一箇所だけを守ることは出来ない……そんなわけで信頼ある医者を呼ぶか硝子に見てもらうか、という事で。
いくら硝子が医学に詳しいったって高専に産婦人科にあるような器具はない。だから通院だけは前回と同じで産む時は硝子に付き添う、高専かマンションかという選択をした。
高専の寮で寝泊まり中におしるしも破水も無い中でふと、なかなか生まれてこない場合の対処法としてお迎え棒ってのがあるのを知って。
そら、ヤるぞ!と昨日の夜と今日の朝、バッコンバッコンと奥を刺激するようなえっちをしてみたりして…。それが利いたのかまたまたその時だったのか、今日の昼過ぎに任務中の僕に連絡が来た。
"ハルカの陣痛が始まったから、立ち会いたいならぼちぼち帰ってくれば?"
「帰る!立ち会うに決まってんじゃん、この後の二件の任務他の呪術師にお裾分けするから僕は今から呪術師じゃなくてパパモードになるから!」
伊地知に車を飛ばして貰い、任務も二件誰かに回せと圧力を掛けといて。車に乗ったまま脚をダンダンと揺すり、ハルカと子供が無事である事を祈っちゃってさ……?医務室に駆けつけると苦しみながらも必死に呼吸を気をつけて、既に出産に挑んでいたんだけど。
……うん、挑んだんだけれど。
「……ハルカ、落ち着いた?」
僕の背中で静かにしてる蒼空。一度退出してろ、と硝子の指示でしばらく医務室の外で待って、許可が出たからこうして戻ってきてる。そっと医務室の隣の個室のドアを開けて見れば、その空間は少し前と変わって痛みで喘ぐ声も子供の泣き声も、混乱する彼女の声もなく元通り静かになっていた。
硝子が強引に眠らせたのかな…と言葉に出さずにドアを開けたままで硬直していた僕。結構硝子っておっかない時あるんだよなあ…傑と僕がやらかした時とかさあ…。