第38章 芽吹くもの、芽吹かぬもの
毎朝の肌のお手入れに電動シェーバーで濃い髭を剃る日がやがてやってくるでしょう。あと、筋肉質になったり。
処罰の下る、病や死に直結した呪いじゃない。それくらいの悪戯程度の些細な呪いだけれどただの解呪程度では呪いが解けない、短い毛髪が脳内に侵入してホルモンを出し続ける……私が解呪するためにまた髪降ろしを直接して除去するくらいしかきっと症状を収めることは出来ない。
地味に嫌な嫌がらせだ、女としてどんなにケアをしようともどこかしらに男らしさが溢れ出てしまう呪い。ニ度殺そうとしたのに比べたらこんなもの、可愛いものでしょ。
ふん、と鼻で笑ってこちらを見てるその車の後部座席を見れば、こちらを見ていた顔は伏せられた。私から呪いについてを聞き終えた頭上の悟は吹き出して笑っていた。
「クックックッ…!なあんだ、そういうモノくらいなら報告漏れでもいいか!一応、硝子にも伝えとくよ、あの子が騒げば解呪しろと硝子の元に連絡が行くと思うしさ。
……オマエの事だからもっとえげつない呪いを掛けるかと思ったよ」
『私をなんだと思ってんの?』
「そりゃあ僕の奥さんだからねー、平常な人間に見えて呪術師らしくイカれてるだろ?特に、僕に関する事、とか。
付き合う前後はあんなにも僕を受け流してた子がこんなにも僕に夢中になってくれるなんてねえ~……僕は今、最高に嬉しいよ?」
ぽかぽかと温かいタオルケットに包んだ蒼空をふたりして覗く。大きな瞳でぱちくりと不思議そうに瞬き、にこ!と笑って両手をバタつかせ、「あーう!」とご機嫌そうに笑っていた。アイマスクの悟でも少し慣れてきたのか、泣きそうな素振りを見せない蒼空。
指先でもちもちとした頬をつつく悟が「ご機嫌でちゅね~」とか赤ちゃん言葉を使ってデレデレしてる。
『ねえ…やっぱ、元許嫁でも私が彼女にしたことは悟からしたら許せなかった?』
「……オマエが考えているほど僕はあの子に向ける恋愛感情なんてものは一切ないよ。許嫁というか婚約破談した後に僕よりも酷い男に捕まって可愛そうな人生を送ってるな、みたいな哀れみくらいさ。
それよりもハルカや蒼空、今のオマエのお腹の中の女の子が狙われたという事には怒ってるかな~……オマエ達は僕の大切な家族だ、五条家の宝……、それを奪おうとしたあの子は許せるわけがない」