第38章 芽吹くもの、芽吹かぬもの
「──はい、治療サンクス!
で……、何があったわけ?ある程度、呪力の残穢で察してるけど直接当事者であるオマエから説明は聞いておきたいんだけど」
元気になった男の額をトン、と突き、そのまま気を失ったらしい倒れ込む男を、柱に凭れるように座らせた悟。
悟の視線は座り込んだ元許嫁、そして私へ。あの女が悟が女側に顔を向けた瞬間にかつての写真の一瞬の様に恋する乙女の表情を見せてきた。
……どんなに媚びようとも、悟の心を動かすような人格じゃないでしょ、あんた…。
『チッ…』
「なに苛ついてんの」
『別に~?……なんでもない』
私が彼女を見ると、悟には視線を向けていたのに私からは視線を反らす。
そんな様子を見た悟は女ふたりを交互に見て首を傾げた。
……まあとりあえず今は報告が先だよね。
『今回はそこの二人がコトリバコを持ってきて、私とお腹の子が死んで強制的に悟と別れさせる、蒼空は悟に似てるから貰う…そんなプランで接触してきたんだってさ。
自分は呪符で呪いを防いでこの場で私にけしかけて。呪物はそこの気絶してる男に扱わせてね?いい度胸だよ、悟の"元"婚約者』
「……それ、本当の事?」
ツッコミをしない、余裕の無い声色。彼から笑顔が消えて何かを察したらしい蒼空が背負われたままにぐずり始めた。小刻みに揺すってあやそうとするもダムが決壊したように、わぁーん!と泣くのを見て悟に背負われた息子をどうも泣き止ませられない悟は、そっとおんぶ紐から降ろし、彼の手により私へとバトンタッチされた。
揺すっているうちに涙に濡れたスカイブルーがじっと私の顔を見上げてる。
『ん、泣き止んだね…、じゃ、このままで話を続けるよ。
結婚式の時に私を乗せた車ごと死のうとした男が居たでしょ?誰かさんが尋問の際に死なせたかもしれない時の人。
それ、お金で雇って私を殺すようにってそこの熱烈な視線を向けてくる人が依頼してたんだよ』
ぎゅっと抱きかかえた私達の大切な子供。ただ泣かずに私を見上げてる蒼空。息子から視線を座ったまま身体を縮こませた彼女に向けた。
『……あんたが悟に似ているから貰うと言ったのはあの時既にお腹に居たんだよ。それをあんたが別の使い捨ての人間含め、殺そうとしてたんだ……私は許さないからな。だから、絶対にあんたに掛けた呪いを解いてやらない』