第38章 芽吹くもの、芽吹かぬもの
呪いの核となるモノが収められてるのならそりゃあそうか。
もう一度、右手を振りかぶる。復帰したての呪いが三体、泣きわめく子供の表情で"やめて やめて"と助けを求めているけれど……。
右手を躊躇って、左手と右手の指を組み、その両手に呪力を込めた。思いっきりでいい、確実にここは破壊してみせる……!
組んだ両手を振り下ろす際に見えたものは普段とは見慣れない光景。
パリッ…バリバリバリ…ッ!
赤が一瞬見え、黒い稲妻のようなモノがバチバチと弾けていく。それを理解する頃に振り下ろすコンクリート上、寄木細工はバラバラに弾け、中に封入されていたであろう血の痕跡などとともにそれらに感電していくように黒い稲妻も走っていく。
炸裂音の後に追って物理的な破壊音が聴こえた。
両手首がコンクリートに着いた瞬間にそこに蜘蛛の巣ようにヒビが入り、手自身には痛みは感じなかった。
赤と黒の稲妻が小さな人型の呪いを祓っていく光景……。その光景を見た瞬間に何故か頭の奥がすっきりとする感覚を覚えた気がする……。
──これで、終わった。
立ち上がり、いつの間にか腰が抜けて座り込んでた女を見下ろす。
「あ……ああ…っ」
もう彼女が武器に出来るものはなにもない。
万事休す、と怯える瞳が私を見上げているだけ。なにさ、私の事そんなバケモノでも見るような目で見て……。
『随分とお喋りなお口が大人しくなったじゃん。
……文句があるなら他人や物に頼らずに自分の口で言えよ。別に私はあんたの口をそこの男のように毟り取ったりしないんだし』
コトリバコのあった場所を見ればもう、呪物としての機能は持たず、木片と干からびたものが遠くに散ってるだけ。
そのまま悟の元許嫁に視線を向ければ座り込んだ脚をがくがくと震わせ頭をゆっくりと左右に振っていた。
このまま彼女を不問として逃がす、なんてことをしたら何度だって私は狙われる。そしたらさ、私だけじゃなくて悟との間の子供の命も危険に晒すんだ。
私から男にやったみたいな腕をもぎる、顔を傷付けるなんて外部にあからさまに見えるような傷付ける行為は、その痛みや己の姿を思い出しては敵意を向けられる。だったらそこまでいかないとっておきの呪いを掛けてあげようか?
一歩ずつ近付けば座り込んだ中で少しずつ私から離れようとしてる。直ぐ側に座り込んで女の顔に指を向けた。
『──"髪降ろし…"』