第38章 芽吹くもの、芽吹かぬもの
ぶらん、と私を掴んだままの脳からの最期の指令に忠実なままの腕を剥がし、逃げていった男に投げつけてやった。血液他、骨とか筋肉とかみっちり詰まった男の筋肉質な重たい腕。腕なんて投げやすい形状でも無いし、男まで届く前にコンクリートに血を辺りに撒き散らしながらドチャ、と落ちてそこで新たな赤い染みをじわじわと作ってる。
「あっ…ヒ、ヒィ…っ!」
腕のない黒い長袖がぷらぷらして、布越しに血液が濡らし、コンクリートを染め上げ始めてる。駐車場内に響く男の呻き声と悲鳴の中で女はこの異質な状況に真顔になって、目をまんまるにしていた。
勝ち誇ってるその態度の合間に形勢逆転、戦力という盾をひとつ、戦闘不能にしてやったんだ。
……ふん、だ。
調子に乗らない程度に、鼻で女を嗤っておく。
『浅はかなんだよ、怪我も治せるなら反対に怪我を与える事だって簡単に出来る。
あんたのように人や呪物に頼って高みの見物するような奴にはそりゃあ悟も好意を持てないっしょ!
……っはは!弱小一族で御免遊ばせ?お嬢様?』
言葉遣いなんて気にする方じゃないけどさ?言い返せばその驚いた表情は更に進化を遂げていく…。第二形態ってセルかよ。そこまで変化してないけど。
「な、んであんたなんか……っ!早く、死ね!
……死ね!死ね!コトリバコ、ほら早くあの女を呪い殺して!早く!」
もちろん詰め込まれた呪いに人の言葉が理解出来るとは思わないけど。
先程まで有利と確信していた二人組。それは今じゃヒステリックに叫ぶ女と痛みに膝を着き呻く男……、危険な箱を女が率先して守るとは思わない……男は重症だしさ?
後はこの箱を破壊して、呪いを祓って無効化すれば良いんだよね…?
呪いが正直近付かないようにする術式の呪いが境目に張り付いている間、じわじわと呪力が減っていくのを感じる。いつまでも抑えるというわけにはいかないから、私は一度邪魔をされた腕を振りかぶった。
もう、止める者はいないはず。
拳に呪力を回して邪魔をしようと襲いかかろうとする呪いを殴る。
一体の時もあれば二体纏めた時もあった。右手、左手と交互に呪力を込めては殴ってはみ出た分が千切れ、紫の体液を撒き散らした。
千切れたものは根本へと一度下がり、またぬるぬると"おっがあ…、"と私か当時の母親を求めて再び出てこようとしてる。
『チッ、根本的に破壊しないと無理っぽいな…、』