第38章 芽吹くもの、芽吹かぬもの
これがあるから呪殺の為にその複数の命が利用されて、今は私が狙われてる。この子らをそこで薄ら笑いを浮かべてる女が武器として、または道具として私に向けてんだ。人の子供を自分のモノといい、他人の子供で作られた呪物で殺そう、なんて女にまともさを一切感じられないし。
見事呪いの対象となる私に呪おうにも纏わりつけず、太ももの高さで子供の顔が五つ、ふとももの位置から上を目掛けてはずり下がる。
子供の姿が五つって事はこの箱はゴホウ、と見た。
『……ゴホウ、か…、』
……ゴホウっていったら結構危険じゃん。封じ込められた呪いの数が多く、最大であるハッカイは八人の呪いを詰め込まれた特級呪物。五人分でも特級と言わずともヤバイ。
壊すために箱を殴りつけようとしゃがみ、呪力を纏わせた右手を振りかぶる。
「……!この箱はこわすんじゃねえ!」
私の腕をパシッ!と掴んだ男。手出しをするな、と言われても箱を守れとかそういう命令をされてるのかな。
私の発動してる術式は呪いは防げても人は防げないけれど。掴まれた腕を私は見て眉間に皺を寄せ私を睨みつける男を睨み返した。
『邪魔しないで、五体満足でここから帰りたいなら今すぐに手を離せ』
「ああん?こんな細腕で何が出来るってんだ、女ァ……」
しゃがんだままに見上げれば男は私を嘲笑いながら依頼者である女を向いた瞬間だった。
「コイツどうします?」
「ええ、そうね…、」
男であるこいつが女である私の手を掴めば勝ちだと思ってるらしく、隙はとても多く感じる…。
……私を掴むこの腕、要らないんだな…?ふたりがかりである事や、自身が男だからと優位になっている黒尽くめの男に掴まれた腕。
呪術師という存在をきっと知らないんでしょ。なら、その存在を身体で味わってみれば良い。
『……"罰祟り"』
呪術を流し込めばプチ、プチブチ…ッという音が聴こえ始めてきた。黒尽くめの服からずるんっ、と千切れた腕が抜け出して、私の肘に男の腕の切り口がべち、と当たった。それが生暖かくて気持ち悪く、不快にも血の匂いを周囲に充満させていた。
「──あ」
なにがあったか分からない、という顔。次第に眉間に皺を、表情そのものを歪めて二の腕から先の無い肩を……視線を切り離された腕と血溜まりへ。羽織っただけみたいな服沿いにもう一本の腕で抑え、私からドタドタと足をもつれさせながら離れていく。