第38章 芽吹くもの、芽吹かぬもの
372.R18G
コンクリートの上にカタン、と置かれたコトリバコ。
その呪物の近く、箱よりおよそ半歩離れた女は私に呪符の貼られた腹部を見せつける為に上着を捲っていた手を離し、服が呪符を隠すようにふぁさ、と腹部を覆う。女はまるで「私はこの呪いのターゲットではないの」と言いたそうな顔をし既に勝った気になって、余裕そうに高みの見物……私を向いて微笑んでいた。
……悟が一緒に居たらきっと彼女のこの計画の邪魔してたんだと思う。つくづく運が無いよね、私は。こうして死を望まれて居たんだ…。
日々の生活で呪符を貼っているとはいえ呪物を、ましてやコトリバコなんて危険なものを持ち歩くわけがない。近頃の忙しさがこの近辺に集中していたし、悟の任務が終わるまでは私もまだ安全な方でしょ、とこの街に待機することが多かった。
今日、悟が蒼空を連れていきながら任務をしている。任務に乳児を連れて行くのはどうかと思われるだろうけれど、彼ならば絶対に安心出来た。無下限呪術のおかげで守られて将来呪術師の道を行くだろう子供にも英才教育ってワケで。
ほんっと、今の私がひとりで良かったよ……(だからって安心じゃないけどさ?)
悟の元許嫁は高みの見物をしたまんま。この場に居るもうひとりの男の方はしゃがみこみ、箱に貼り付けられた呪符へと手を伸ばす。
……どこまでの範囲まで呪いが届くのか。少なくとも春日家の本家では呪符で閉じ込められていた状態でマリアは多臓器に呪いを受けてしまっていた。もっとも、呪符が古かった事や特級呪物が複数個含む大量の呪物が保管されていた、最悪の環境だったからかもしれないけど……。
あの処刑された男が数え漏らした個数のひとつかもしれないし、私の視界にあるコトリバコが春日家が作り出したものとは限らない。それに近くじゃないから特徴とかも分からないし、コトリバコの中身が何なのかって見分け方は私は詳しく知らない。
この辺りについては二年か三年の座学で習うものだと思ったんだけど…(私、一年で退学届け出したし)
ニホウとかゴホウとか、箱にあるだろう分かりやすい印を確認せずとも確認が出来ていた、悟の眼もここにはないから、目の前に置かれたそのコトリバコに何体の子供が封じ込められているのかも……。