第38章 芽吹くもの、芽吹かぬもの
『やめよう、あんたのただの嫉妬からの暴言ばかり受けても話が進まないじゃん。
で?ここは穏便なお話で終わりですか、お嬢様?』
きょとん、とした表情。そこに私はひとつ頭に浮かんだ事を口に出す。
確証はないし、妄想のひとつと言われる事もある。しらを切り「そんなの知らない、関係ない」と言われたらそこまでだけど、ここまで狂った女ならばこの勢いでぺらぺら喋るでしょ。
『私と悟の結婚式にあんたのお友達を送りつけたでしょう?』
「……さあ?何を言ってるのかしらね、貴女頭がおかしいんじゃない?」
『今更とぼけんなよ……お金を積んでなんでも言うことを利いてた青年だよ。
なんでも…例えば、依頼して死んででも私を殺せるならってお願いをしたお友達って言えば良い?』
私に殺意を持って狙いに来るとしたらきっとこの女くらいだ。
普通は春日の女を生かす、生かしたまま捕らえたり連れ去って子供を作ろうとするのにさ?私が春日家の女系継承の末裔だと知って、最期の一人を殺しちゃなんの意味はない。利用が出来ないのだから。
私の言葉を聞いてニタァ…と本性を現したような微笑み。嫌になるくらいに無邪気な笑みは猫かぶりのその毛皮を剥がした、汚らわしい中身そのもののようで、とても綺麗とか可愛いって言葉を付けられるものではなかった。
女は胸を張り、片手を置いて誇らしげに当時の事を思い出したみたい。私を殺せと依頼した、あの男の存在を。
「ええ、そういえばそんな奴確かに居たわね……?
失敗して、積んだお金が無駄になったわ。雇い主の情報まで吐いちゃってなんて粗悪品を掴んじゃったのかしら!
死ぬ気で貴女を殺すのなら最悪殺せなくても尋問される前に死ねば良かったのに……」
『……あんた、最低だな』
「でも良かったわ~…、あの時貴女が死ななくって!そこはあの男の子に感謝はしてるの」
死ね、殺すという敵意からの生きてて良かったという展開は頭が混乱しそうなくらいに言ってることが私の脳みそでは理解出来やしない。
何も言い出せずに警戒だけしていると女は片手を差し出し私の顔を指差した。このやりとりでの満面の笑みは狂った人間としか言えない。