第38章 芽吹くもの、芽吹かぬもの
ドラッグストアを通り過ぎ、私は少し先の大型スーパーへ足早に向かってる。携帯などで連絡を取るんじゃない、サトールの方が緊急性がある。バッグの中で手足をバタつかせたらしくもぞもぞと動いて「ゴジョ!」と小さくも聴こえた鳴き声。
ここは人目につきにくい駐車場に入り込んで対処しよう。悟を待つために動き回るもの得策じゃない、今はお腹に今週で二十六周目となる女の子が宿ってるんだ。まだ、名前も蒼空の時みたいにたくさん考案してる最中で決まっちゃいない、待ち遠しい命が芽生えて誕生の時を待っている……。
『サトール。悟に通報をしておいて。もしも圏外で連絡がつかないなら、メッセージでも良いから……出来る?』
元気に「ヌイ!」とバッグの中から返事をしたサトール。分かった、とかやってみる、という感じで私の頼み事に否定的じゃなさそう……。
悟ならばきっと、私がどこに居るかは眼で捕らえられる。
車から少し離れていたとしても何時間も経過していないし、私の呪力を探知出来るはず。呪術を使わずとも常に薄い呪力で低級程度は祓える、けれども呪いを呼び寄せる春日家の女系に代々伝わる天与呪縛……これを頼りに来てくれれば確実で良いんだけれど。
彼の視界から逃げ出せはしない、人によってはある種の拘束と感じるかもしれないけれど、私にはこのどこに行こうとも把握されるというこの関係は安心のひとつだと感じてる。私自身、悟に隠したい関係を持つ人だとか、そういうやましいことは何もないしね?
決して走らず、デパートの中へ。
駐車場へは歩行者も行けるだろうけどそこへ向かえば迎え撃つんだ?と向こうも察するくらいあからさまでしょうし。
店内を適当に歩きまわり、そのまま駐車場へと出る階段を降りていく……。コンクリートに囲まれた薄暗い駐車場に出てもしばらく私は歩いた。
きっとここに車が停められてるなんて思われていない、彼女達もそれは察してるでしょ。
階段やエスカレーターから少し離れて人の殆ど居ない中、私は立ち止まった。しっかりと刺す視線の主と嫌な気配もほぼ一緒のタイミングで立ち止まった足音。
『……ストーカー行為は止めて欲しいんですけど?』