第38章 芽吹くもの、芽吹かぬもの
視線の先に最終目的となるドラッグストアの看板が見える。本当は息抜きにぷらぷらして最後に寄るってプランにしたかったんだけどそれは今回に限っては叶わなさそうだなあ……。買い物もウィンドウショッピングも、カフェなんかもこの視線を受けて呑気にしてられないでしょ…ほんの一瞬の隙で殺されたりするかもしれないし。
ただ、視線の主達も私の背後から一定の距離を保ち、しっかりと着いてきているみたいでどこまでも連れ歩く、というわけにはいかない。撒く為に長距離移動も速歩き以上も身籠った身体に良くないだろうしさ…。
どうしよう、とふと向けたショーケース前。そこに立って来た道に目を向けた時にその人物が立ち止まっていたのを見た。その人は全く知らない人ではなかった。
──"彼女"は何ヶ月も前に見たっきりだと思ったけれど。
今回は一体私に何の用事があるのやら。少なくともこの視線を向けてるのだし平和なお茶のお誘いなんて事はなさそうかな…。
懐かしい顔を確認はしたもののじっと観察することはしなかったけど、以前見た膨れていたお腹はしっかりと引っ込んでた。出産や流れたって事じゃなくて頭で"そんな事実は無かった"のだと当人が理解したから身体が元通りに戻ったんでしょ。
以前と違うのは以前の彼女になかった呪力の原因と思われる人物が側に居たって事。隣に一人、私の知らない男が何かを抱えていたのも見てる。ふたりして少し離れた場所からすぐ隣の大きなショーウィンドウの商品を見ず、進行方向を向いて並んで立ち尽くしてる…というのはいくらなんでも怪しすぎた。
隠してるつもりなんでしょうけどあのおふたりさんはバレてないと思って抜けてるだけか、例えバレたといてもその姿を隠すつもりもないのか…。
人目につかない所に行くことはリスクがある。けれど殺意を向けられたからには人混みの中で冷静なお話が出来るとも限らない。呪力があるって事はそういう被害がある可能性があるんだ。
……ひとりで全てを解決しちゃ駄目。ここは悟に報告が必要かも。
そう思って私の側には適任者が常に居るって事を思い出した。一緒に歩いてるっていうか、バッグに詰め込まれてたまーに「ヌッ」って小さな声を漏らしてんだけど。
『サトール、サトール……声が聴こえたら声なり動きを見せて』