第38章 芽吹くもの、芽吹かぬもの
「冷えないように去年僕があげたマフラーしなよ。オマエ、去年僕みたいにさ、ずっーとしてたじゃん」
確かにお気に入りでずっとしてたなあ。温かいのはもちろんだけど彼の残り香が僅かに残ってて、洗濯して香りが飛んで悲しくなれば悟が少しの間彼自身で付けてくれたり。
……あんなに大切にしてお気に入りのマフラー…なんで今年はしてないんだろう?と思い返せば思い当たる節がある。その理由をさっきまで腕に居た悟そっくりな子供を思い浮かべて笑った。
『蒼空を抱っこしてるとぽかぽかして温かいんだよ』
エアー抱っこをして見上げれば悟はククッ!と笑う。彼自身も思い当たるっていうか、この時期に抱っこするというのは温かくて良いんだけど成長とともに重くなってるんだよねえ……。
それを思い出して『重たいけどね』と付け足せば悟は頷いてた。
「子供体温って侮れないよね~…って事で蒼空の代わりに僕が寒がりで寂しんぼなキミを温めちゃおっかな~?」
ぐりぐりと側頭部に頬擦りする悟から離れようとするも片腕は引き寄せてくる。嬉しいけど正直しつこいときもあるコレ。今はちょっといつ門から人が来るか分からないから、人目が気になるかも、と密着した頭部、片手をそこに突っ込みぐい、と押せば柔らかい頬がむにぃ…と私の手で押される五条悟の出来上がり。
「ほらまたー!こうやって猫チャンみたいな拒否しちゃってー!」
『うるせっ』
「どうせどこかから見られてるかもって視線が気になるからこんな対応してんだろ?気にしなくて良いんだよー、誰も僕らを見ちゃいないから。
いいよ、このままキミに任務に送って貰いつつ帰りに寄り道して貰うし…」
押されていた頬は自ら私から離れていく。抱き寄せた悟による強い力も消え、肩から離れると手をこちらに向けて微笑む口元。
これから車庫に向かって私が運転で悟を任務先に送り出す。彼に来ている任務は一件や二件じゃない、いくつものはしごをして呪いを祓い時に呪物を回収したり破壊したり……。
その間私は高専から離れるから医務室に少しの間空きが出来るけれど、命の掛かった緊急の場合は連絡が入るって話。些細な怪我は後ほど来てもらうとしてさ、私は子供を預けたこの後は彼を任務に送り届けるっていう、治療・事務・拷問に次ぐ新しい仕事をしていくんだ。