第37章 繋ぐいのち、五条と春日の鎹
──訂正、そこにもうひとり成人男性が居ましたねえ……。
笑顔の蒼空に触れながら、その瞳の奥の端に僅かに反射する毎日見る同じ白銀の頭髪の男が口元を抑えてるのが見えた。
『わー、私がドアを締めなかったから不審者来ちゃったねー、蒼空ー』
「不審者?心外だなー……不審者、いいえ、パパです!」
「あっは、うー…!」
悟がキメ声で言い放てばなんでも面白がる息子にはそれが受けたらしくきゃっきゃと笑っていた。
「……やだあ、ウケてるんですけどー!ウケてる事にウケるわー…尊いわー、むしろ尊ッッ(そん)」
私の視界いっぱいには子供の笑顔だけど視界の外からは悟の声がする。
親の、それとも見えるものの手触りだとか温度を確かめるような触れ方から、そっと顔を上げると蒼空の手が私から離ればたばたとしながらすぐにぐずり始める蒼空。代わりといっちゃなんだけど片手で頬を触れてやれば、ぴた、とぐずるのを止めて両手で私の手をいじり、口に持っていこうとしてる。
よし、ギャン泣きキャンセル成功!と悟を見るとアイマスクをしてすぐ側で覗き込んでいた。
「起きてる間はずっとママの側に居ないと不安なんだねえ……マザコンな部分はハルカ似かー」
『私はそんなマザコンじゃねえよ?』
「えー?じゃあ誰?僕はマザコンじゃないんだけど?」
『……自惚れかもだけど私を独占したいって父親似とかじゃね…?』
そう言えば隣からの吹き出すような声。んっふ!だってよ!
「確かに言えてる。僕、オマエを取られるのヤだもん……息子なら仕方ないけどさ?」
口に含まれてしまった指をよだれかけで拭って。
空いた指で頬を触れるのを止め、揺すって覗くとご機嫌というよりも不思議そうな顔してる。悟に抱っこして貰お、とのそのそとスリングから蒼空をバトンタッチすると一気にぐずり「ぎゃああん!」と泣き出す蒼空。
やや慌てながら揺すり、背を指先でトントンと何度も叩きながらあやしてる。ちゃんとパパやってるなあー……。
「もー!泣く直前でのバトンタッチとか~!う、ぐずんっ」
『父親がぐずってどうすんねん』
「うっ、ああっ…おわあぁん!」
「ほら泣いちゃったー!わあーん!」
泣く直前っていうか手をバタつかせて顔をそむけるように表情をクシャ!とさせて泣いてる息子。
その真似をする悟。