第37章 繋ぐいのち、五条と春日の鎹
『んー…そうだね。悟が側に居るしちょっとだけ安心で、何度も痛みに疲れてさ。眠いしベッドの上だしこのまま仮眠でも出来たら良いけど寝れないのがなー……』
「僕が代わりに寝とこうか?それくらいなら僕も出来るよ?」
「そんな代わりにトイレに行ってくる、みたいな事言われても。悟が寝ても私になんの恩恵来ないじゃんけ」
そうぶすくれて頬を膨らました彼女。こんな時でも変わらない対応で僕を構ってくれるハルカにはウケる。手を伸ばし、頭を撫でようとしたら、その僕の手に気付いた彼女自身が撫でて、というように頭を差し出す。
今の僕に出来る事はこういう事なんだろうな、と笑みが溢れた。ほんの少し甘え下手な猫みたいな子なんだから…!
「……もぉ~、甘えん坊さん!赤ちゃん生む前にキミが子供みたいになってどうすんの?」
『む、じゃあいいですぅー、撫でなくて結構。手ぇ引っ込めな?』
「うっそ、ごめんごめん僕が撫でたいだけ!撫でさせて!」
『仕方ねえな……、ほら、』
一度撫でるのを拒否した後に、ふっ、と笑って自ら僕の手を頭に乗せて。ああ、うん…これはオマエが言葉に出さずとも撫でろって事ね。はいはい…と優しく撫でると彼女は嬉しそうに笑った。
どんなに痛かろうが、僕には痛みを受けることも子供を産む役割も変わってあげられない。こうして甘やかす事で少しでもこの子の気が紛れるのなら良いけど……。
なでなで、なで。静かに僕らの時間が流れてる。時々スタッフが出入りしてて(今もここにいる)、キスしたり出来ないんだけど。
『……ん、いた、いたた…っ、』
安心して緩められた表情がだんだんと険しくなり、痛みに呻く。撫でていた手をそっと払われて僕から顔を背けたハルカ。痛がる顔を見せたくないみたい…。
部屋でも痛がり病院でもこんなに痛がってるのにまだ彼女の身体はお産の準備が出来ていないらしく、いつまでハルカが我慢すれば良いんだ?って不安になった。
お腹に着けた器具やその時が来たかどうかをグラフが線を書き出していく。それをおばちゃんスタッフが見てのんびりと部屋を去っていったからまだ時間がかかるみたい……。