第37章 繋ぐいのち、五条と春日の鎹
今は高専に連絡はしなくても良いか。
生まれた頃に病院周辺に不審者が居ないかの見張りは必要だな。どちらの性別にしろ、母子共に攫われたりする可能性がある、それから…──。
痛そうに身を捩って耐える彼女からマンションから持ってきたバッグを見る。視線の先、ハルカのバッグの中には連れてきた呪骸が入ってる。子供が生まれた後、その呪骸を僕らの子の側に置いておくんだ。消毒いっぱいされちゃうだろうけど、そこは我慢ね、サトール。
生まれた後に僕たちから離され、病院関係者のみに管理されるとしてもその人物全てが信用できるとは限らないし。呪骸が側にあれば通報をしてくれる、そうすればすぐに僕が駆けつけられる。
『ふー…ふー……、』
「……そろそろな感じ…?」
ティッシュを取ろうとした手。代わりに僕がずぼ、と一枚取って渡すと手を拭いてる。ゴミ箱を探す視線、その手汗を拭いた丸まったティッシュを受け取るとじっとりとしてて、ベッド側の丸いゴミ箱へ投げ入れる。
額に掛かる前髪が汗で張り付いてる……優しく撫でて、ゆっくりと瞬きをする少し眠そうに見えるハルカを労った。
『痛いけど、少し収まってるゾーン……』
充分に頑張ってるのに頭の中じゃ彼女に頑張れってエールを送るしか出来ないのがなんとももどかしいこと!
痛みが来る感覚がここに来た時と比べれば短くなってきた。別室への移動、まだかな…と、待てばドアをノックして入ってくるおばちゃん。
ハルカの側に来て、彼女の様子を見た後ににこりと笑った。
「うん!そろそろですね」
「やはり分娩室か、いつ出立する?僕も同行する」
『おい、五条院典明!』
ハルカの身の回りでうろつき、計器を外してるスタッフ。
その間ハルカはじっと僕を見てゆっくりとした口調で言い聞かせるように繰り返す。
『ねえ…悟、流石に一緒に分娩室に来るのはさ……?きっと時間掛かるし、私も集中が出来ないだろうし、ほら…色々とさ?ねっ?ねっ?』