第37章 繋ぐいのち、五条と春日の鎹
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ベッド周りに持ってきた荷物を置き、今は痛みが落ち着いてるハルカの隣の椅子に座る。ギギ…、と丸くて背もたれの無いパイプ椅子が軋む音。
これから戦いに向かうという彼女は既に疲れた表情をしてるんだけど。大丈夫、これ……家でも苦しんでいたってのにこの状態で更に何時間か掛かるんでしょ?結構、この時点で弱ってんじゃん……。
「ハルカ選手、現在のお気持ちは?」
エア・マイクで取材を試みる僕。
お腹の様子を見るためにベッドに横たわる彼女には器具が着けられててなんだか物々しい雰囲気……。ここまでするんだねえ。
ハルカはお腹に巻かれたものを指差して短く笑っていた。
『寿司になった気分なんだけど』
お腹の中の赤ちゃんがどういう様子かを管理する為にお腹に巻いたベルトだとかケーブル。そんな気分になっているのか、と僕は妙に納得した。そうか、今のキミは寿司なんだねえ……、にぎりや軍艦じゃなくって言われずとも巻き寿司なんだろうってのは理解出来る。
どんな巻き寿司かな?納豆?かんぴょう?それともねぎとろ?あっ鉄火巻とか!?
「ねえねえ、かっぱ巻になってる僕の奥さん?」
『喧嘩売ってんの?』
「えー…だってお寿司って言ったじゃん……じゃあカルフォルニアロールちゃん?」
きゅうりじゃ駄目なの?と冗談で言い換えたら小さく頷く彼女は『よし』って言った。それはいいんだ…ぜってえ横文字だからええか…ってノリでしょ。
ハルカの側でそっと手を伸ばして頭を撫でる。長い髪は真後ろじゃなくて肩のあたりで緩く結われてて前髪の掛かった額に触れたらほんのり汗ばんでた。そこから頬を指の背ですりすりと撫でて僕は彼女と触れ合う手を引っ込める。
「痛いの、僕に分けられたら良いのにね?僕はオマエが痛がる姿を見てるだけでハラハラするよ…」
『私のを移すのは出来ても私自身痛みを取れないもん。我慢するしかないよ……お母さん達、みんな…経験してるんだから』
病気でも怪我でもないからなのか、その痛みは治すものに含まれない。
何度も苦しそうな表情をして堪える所は見るのはある意味では拷問…だけど、僕は彼女を守るって決めてんだ。
今は少し穏やかな表情。瞬きがゆっくりなのを見て首を傾げた。
「……痛い、の次は眠いの?」