第37章 繋ぐいのち、五条と春日の鎹
──また痛みがぶり返してるみたいだ……。
ぎゅううっ、と僕の手とベッドの布生地の皺が深く刻まれるくらいに掴んで、声に鳴らない声を漏らして。
痛そうな表情をしてるハルカを見ればその痛みをなんとかしてあげたいけれど僕にはどうしようも出来なさそうだ……。返事を言葉にせずに一度大きく頷くハルカ。
身を捩って呼吸を荒げ、しばらく痛そうな様子をしたあとに深く息を吐いてる。今の痛みはどれくらいなんだろう……?体験していない僕からしたら想像もつかないけれど、産む時は例の"膝の骨が見えるより痛くて、頭蓋骨に穴をあけるより痛くない"っていう北斗晶のあの苦痛の例えが彼女の身に降りかかるんだ。
「ねえ、今のキミの痛さってアジャコングの攻撃くらいの痛さかな……?」
『……ぶっとばすぞ?』
「ごめん……(これでも真面目に聞いたんだけどなあ…)」
目尻に涙が見える。ぎゅっと目を瞑って痛がっていたからその時のだ。ふざけてるつもりじゃないけれど怒られてちょっとだけしょげた僕は握ったハルカの片手を包むように手を重ねる。冷えた手を温めたい、それくらいしか様子見をする僕には出来ないんだ…。
後は笑顔かな…、笑顔、笑顔…。安心出来るように、僕が側にいてすぐにでも車で病院まで連れて行くから。
「……大丈夫だよ、僕が側に居るから」
マンションの下、車の中には既に荷物は乗せてある。後は彼女の痛みの波が短くなってきたら即、抱えて病院に連行する。
いよいよ一年近く、ハルカの中で育てられてきた命との対面の時。
教師に向いてないって自覚する僕だけれど、正直父親として子供の鑑になるかも分からない。不安だけれど、僕が蒔いた種、責任。愛し合い、子供を作る行為を何度も重ねてハルカが生きた証をこの先もずっと残したいから。