第37章 繋ぐいのち、五条と春日の鎹
「もしもし!ハルカ、大丈夫!?」
心配する僕の声を聞いた彼女は小さく笑ったのか、吐息が聴こえた。
"いつもよりも騒ぎすぎだなあ~…今は大丈夫だって。陣痛というか、生まれるまで時間掛かるみたいだしこうしてる間に荷物纏めてるから。
ねえ悟、高専からこっちに帰ってこれそう?"
「なんでそんなに冷静なワケぇ……、と、とりあえず任務も報告書提出も終わってるから急いで帰るからねっ!生まれそうになったら僕に電話!」
"だからまだ出ねえよ??"
一度通話を切った僕の服をつんつんと引っ張る硝子に「とりあえず落ち着け」と言われて深呼吸をした。
……ふぅー…、ヒッヒッフー…ヒッヒッフー…
「馬鹿、オマエが産もうとしてどうすんだ、五条」
「いや、だってさ…、ハルカも産もうとしてんだぜ?」
「五条がそうやってる時間が勿体ないだろ…あの子の元にさっさと駆けつけな」
真顔でツッコまれた後にふっ、と口元で笑う硝子はドアを指差す。
……よく見たらガラスにヒビが入ってるけど。それは仕方ないです、急いでたんだもん……。ここは見なかった事にしよ。
ドアから硝子を見れば硝子は顎でしゃくった。
「さっさと嫁の元に行け。ここで狼狽えても目障りだししょうがないし何も進展しないだろ。
一日以内に多分ハルカが痛がり始めるけど、その痛みと落ち着く感覚が短くなってきたらそこで陣痛が来てるって事だから産婦人科に向かえ。あんまり狼狽えてちょっとの痛みで行っても門前払いされる事もあるからな?
入院して様子を見てから産むのが一般的。くれぐれも慌てて迷惑を掛けるなよ?なんか分からない事があれば私に連絡しろ」
「さんきゅー硝子!後でイイ酒持ってくるから!」
一気に言われても理解し切れた気がしないけど、とりあえずサムズアップ!
「ん。下戸のセンスは信用ならないけどハルカに聞いて買ってこいよー」
手を軽く振ってデスクに向かう硝子。それを見て僕はうんうん頷き医務室を飛び出した。目指すはマンション、ハルカの元へ!
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手の中が彼女の手汗で濡れてて冷えてる彼女の手。
ぎゅっと力いっぱいに握りしめ、もう片手は血とハルカの意思と関係なく飛び出した水で濡らしたベッドカバーをシワになるくらいにぎゅっと掴んでる。
「……痛いの?」
『んっ…、』