第37章 繋ぐいのち、五条と春日の鎹
「おい、ここは医務室、人が居ても居なくても静かにしろっていつも言ってるだろ、クズ」
「硝子!大変!ハルカが水噴射した!」
"おい、私は噴水じゃないんだけど?"
耳に当てたままのスマホからのツッコミは酷く冷静。
目の前にいる硝子も硬直して、二秒くらいしてから「破水か…」と僕の言葉を理解してくれた。
僕が耳に押し付けたスマホにと手を伸ばして変われ、と硝子に催促されてハルカと話をさせると、痛みはあるか?とか動けるか?とか僕の前で電話越しに彼女の様子を聞きながら冷静に対処してる。
──確か、子供を産むのって相当痛いんだって知ってる。男の僕からしたらそれは経験する事が出来ない人生のビッグイベント。
そりゃあ僕は彼女の奥深くに種は蒔いたさ。種を受け取ったのは畑。養分をとって作物が育つように、彼女の中で命が約一年の中で育まれてた。
蒔いた僕にはその間のつわりだとか、だるさだとか、頻尿だとか関係無いからこそ、その辛さも痛みも分からない。肉体的に分かち合えない辛さ。
だからずっと普段出来た事が出来ない時は進んでやったけど…、僕は当事者にはなれない。
……これからハルカは何時間も痛みを伴って僕との子供を産む。
昔ながらの鼻からスイカが出る、とか妙な例えがあるけれどそんなの男女共に首を傾げる例えだと思う。だからさ、お腹で生まれるその時を待つ蒼空と、誕生日を決めるハルカに少しでも寄り添いたくて調べたり、僕の親に聞いたりしてみたりしてさ…。
子供を産むのはでっかいうんこが出る、とかいう人も居たけれど強烈な例えとして"膝の骨が見えるより痛くて、頭蓋骨に穴をあけるより痛くない"というとんでもない例えを見つけて戦慄した。それを世の中のお母さん達はやってのけてるってワケだ。
誰も簡単に産んだ、なんて言う人はいなくて、特に初産は何時間も苦しんだって聞く…。
ごくり、と冷静にスマホで今やるべき事をアドバイスする硝子を眺めて、居ても立っても居られない僕はその場で走るように足踏みをした。
そんな落ち着かない僕に硝子が視線を向け「ん、」と僕にスマホを返そうと僕に"ハルカ"と名前の表示された画面を見せる。僕は手汗を服で拭いた片手で持ち直してマンションに居るだろう彼女に呼びかけた。