第37章 繋ぐいのち、五条と春日の鎹
通路に出る所で通話にして耳に付けるスマホ。なんだろねー、必要なものを買ってきてっていう買い物の依頼かな…?プリンとかゼリーとか、いや…もしかしたら寂しいから悟…帰ってきて!かもね?
大きなお腹で臨月のハルカ。動きも鈍く、少しの移動でもとても辛そうでさ……。
ずっと僕との子供をお腹で育て続けてもうそろそろ辛そうな期間から解き放たれそうなんだ。辛い時は側に居てあげるからいつでも連絡してって言ってるんだけど、なかなか寂しいって気持ちを電話で伝えてくれないんだよな~。
「はぁい、愛しのダーリンだよ~!」
最後にちゅっ!とリップ音を付け足して部屋にいる彼女にキッスを音声でお送りいたしました、と。濃厚キッス気味に「んーまっ!」って前やったらシンプルにキモいってキモがられたから特濃キッスがお届け出来ないのは残念だけどさ。
僕は報告書も出したしすぐに部屋に帰れる状態。追加の任務を言い渡されたら全力でゴネたろ。他のヤツに頼めよな~って。
今日は彼女はマンションにお留守番してんだ。サトールって可愛くも僕に似て自由な呪骸を持ち歩いても、臨月である彼女がすぐ近くにあるスーパーに買い物に行くのはとても辛そうだ。買い物でも辛いんだから出来るだけ部屋で基本的に過ごしなさい、と伝えてる。つっても広いし、テレビも運動器具も食料もあるしサトールというセコムつきだし退屈しないと思うんだけど……。
リップ音を送った後にはあ、という風の音。呆れた?僕の色気にやられてきゅんってしちゃった?どっちの反応でもいい、嬉しくって「どしたの~?」とハルカの声を早く聞きたくて要件を急かせば、彼女のため息みたいな息遣いが数度聴こえるだけ。
僕は通路を進む足を止めた。耳に集中する、ちょっと様子がおかしい。ため息っていうか、息を切らせてる…というのかな。
「……ハルカ?大丈夫?」
"さと、る…水が、水、股から水が出てきたんですけど……"
……瞬時に思考停止。そして。
「……マジ?それ、おしっこ漏らしたって事じゃなくて?」
"マジ。失礼だな、尿意の度に電話してられっか!しっこじゃない方、だと思うんだよねぇ……"
脳裏に浮かぶのは破水って言葉。
予定日はもう少し先だったんだけど。覚悟はあったと思ってたのに急に父親になるという不安と、初めての奥さんの出産という一大事に混乱する。