第37章 繋ぐいのち、五条と春日の鎹
メロンクリームソーダのグラスの中、沈みかけのバニラアイスをスプーンで追い回しながら、そのあの許嫁であった人を他人事、といつもの調子で語る悟。
その人が今ここに居ないのが気になる所だけれど……。
『それでなんで振られたはずの悟の元に戻ってくるのさ?』
振られて次に進もうとした前向きな所は分かるけれど。責任を取らない相手の子を身籠って、それを無かった事にして、二度三度と夫婦となった関係の間を繋ぐものを育めなくて。
それを悟だから大丈夫だと思ったの?悟だって血は繋いでいくのに、この人との肉体関係もなく想像上で彼の子だと偽って。結局腹にあったのは想像上の子供であって、実際は命じゃなかったじゃない。
……ムカつくなあ~…。既にパートナーとなってる人を奪おうとするだけか、私やお腹の子に死ね、とまで呪いを吐き出すように言い放ってさ…?
ストローでパステルカラーになっていない、クリアグリーンの液体を吸っている悟。ストローから唇を、スプーンから手を離して頬杖をつく。視線は私でも伏黒でもなく、窓の外。誰かを追う視線じゃなくてぼーっとしてる。
「さあね~……、病院から出ようとした時に逃げ出してしまったから真相は謎。医者も繰り返す流産を見てきて、今回のお腹を見て驚いてたよ。あそこまで育ったお腹の彼女を見たことが無かったようでね、最初の子以来で一番大きかったんだって。
医者に行かなかったのは彼女自身知ってたのかもれないし、医者に行く事で仮に妊娠してたとしてもそれを取られてしまうだとか、被害妄想に走ったのか……。
そして今回、僕が医者に見せた事によって何も居ない事が発覚してさ。子供なんてそのお腹にはいませんでした、その事実を告げればあの子は発狂してしまった」
何組かこの喫茶店にお客さんはいるけれど。沈黙の中で悟は私を見てにこ、と笑う。
「──ああ、知ってた?想像妊娠ってね、自身の頭で理解すると体がああ、そうですかって体もようやく本当の事を理解をして徐々に治ってくみたいなんだよ……多くの場合はね?
脳次第なんだ、妊娠したって身体が反応するのも、辞める事も…ね」