第37章 繋ぐいのち、五条と春日の鎹
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「はあ?想像妊娠、ですか?」
伏黒が聞き返す言葉は私も聞きたい事で。私は訝しむその伏黒から悟を向く。悟はひとつ頷いていた。
「そっ!想像妊娠。あの子さ、随分と大きなお腹をしてたけど、その膨れたお腹の中には結局彼女の血を受け継ぐ子孫どころか何もなかった。
うーん、何もっていうか多くは脂肪分だとかそういうものらしいんだけど~……、彼女は僕との思い出を種に、体が子供が出来たのだと過剰な思い込みをしてしまってたんだ」
この話題を笑顔で言う彼も相当だけれど。あのクレイジーな女がそこまで至った病み具合も相当だったみたい。
悟が彼女を捕まえ、連れて行った場所はかつての彼女も何度も通った場所だったらしい。初診かと思った彼女はすんなりと受付が済み、先生もここまで膨らんだ腹部の状態には驚いていたんだと。
──あの女は哀れだった。
悟に許嫁…言わば婚約という立場を解消され、振られたという事に深く傷つき、彼を忘れる為に色んな男を知っていった。
いつか結ばれるものだと、好きだった相手にその時に捧げるものを傷付いた心を埋める為の男に容易に手放し、そこからは自身をどんどん男達に晒して自身の価値を落としていって……。
許嫁という約束された道のレールを突然に取り外された者の末路。ムキになって、あの人は幸せを掴み取ろうと足掻いた。
足掻いて足掻いて…藻掻いて。これが最後の恋だと、優しくしてくれた人に身を捧げ、身籠り、責任を逃れる為棄てられ……。
次の恋の障害になるからと取り出し、新たな恋をと何度も溺れて…。
それを繰り返した彼女にも最後の出会いとなる出会いが来たんだって。
悟と幼馴染みの彼女も、いい家柄にいるおかげか縁談が来て、結婚をして何度も母になる機会があったみたいだ。それで、あの産婦人科に通った。何度も、何度も…妊娠の傾向があり通ってしばらくして……。
「──せっかく授かっても、成長していく中ですぐに流れてしまった……二度、三度って。繰り返した結果、不育症になったんだって。そういう原因ってもちろん男にもあったりするからさ、女の子だけに責任があるわけじゃないんだけど、引き取った相手の家は僕みたいな広い心の持ち主じゃなくってね!全てあの子のせいにしたようだね。
だから相手の家は家を継ぐ長男の血を継ぐ事の出来ない彼女を見切った。僕だけじゃなくて嫁ぎ先にも捨てられたんだー」