第37章 繋ぐいのち、五条と春日の鎹
記憶を封じ込められたって、ずっと私の面影を求めてた悟。それを思えば……。
『なんか、ちょっと…嬉しいかもって……』
「ズレてんな…、俺から見たらかなり重いと思うけど」
『そーかなぁ~?』
周囲からの視点がどうであれ、以前の私も悟に向けられる愛情が重いものだと識りながらもそれでも今は変わりない愛情が嬉しくって。
半分程ほじくり、クレーターとなったバニラアイスをスプーンで突けばその中にパステルカラーの湖がシュワシュワと生まれる。
『……嬉しいじゃーん。かつてホイホイ女のおケツ追い回して遊んでた人がよそ見できないくらいに夢中なる、そんなたったひとりの存在に選ばれたっていうの!』
「はあ…?……いや、俺にはやっぱ理解出来ないッス……」
えへへー、ここはチーズケーキ頼んじゃお!と無邪気な子供みたいな気持ちに戻って足をバタバタさせながらスタッフにチーズケーキを注文し、説明も終わったって事だし、伏黒と共に最近どう?と世間話をしながら待っていると、一時間を過ぎた所で伏黒が携帯を耳に当て始めた。
ブブブ…とバイブレーションした所を見て、着信の相手、……恐らくは悟からなんだろうって察した。
会話を邪魔しないように、を見せかけつつ会話に耳をでっかくする勢いで聞いとく。もしも、じゃないようにドキドキしながら。
「……はい。ああ、そうですか、俺はハルカさんと近くの喫茶店に居ますよ……じゃあ、このままこちらで待っていれば良いんですか?…分かりました、引き続き待ちます」
どうやらあの女の診断が終わり、私達はここで待てって事みたいで。
電話中の伏黒にサムズアップをしたら眉間に皺を寄せ、通話が終わった後に「……だ、そうです」で伝えられてしまった。聞いてたっていうか察してると見られてんなあ…。
水の入ったグラスを前に窓の外を眺めていたら、五分ともせずに見覚えのある白銀の頭髪を見て、顔がこっちを向いた瞬間に私は手を振った。気付いた彼は片手を少し挙げ、にこりと笑ってる……悟の隣にはあの女は居なかった。
小走りで悟は店舗の出入り口へと向かい間もなくカランカラン、とドアベルを鳴らし両手をズボンのポケットに入れた彼が店内で見えた。
スタッフに「中で待ってる人が居るから」と席の案内を断って、真っ直ぐこちらに向かってくる最中。既にサングラスの下の口元に笑顔を浮かべた彼が近付いてきた。