第37章 繋ぐいのち、五条と春日の鎹
「……あんたなんかが触れられていい人じゃないのよ、汚らわしい女!さっさと悟さんと別れて頂戴、そして悟さんの子を産むのは私なの。だから、その子は堕ろして?
丁度そこに産婦人科があるわね、私の目の前で速攻堕ろしに行って頂戴」
「おい、オマエ……!」
彼女の私に対する否定的な態度に何も言えずにいれば、悟が怒りを含んだ言葉を漏らしていた。
それも耳に入らないのか、彼女はにっこりと意地悪そうな微笑みを浮かべて話を続けてる…。
「ああ、そうね~。堕ろせる時期は過ぎたのかしらね?その大きさを見れば明らかだったわ。
じゃあ……あんたごと死になさいな?母子共々消えてくれたら、悟さんももう、騙される事はないわ!」
『……』
「──退けよ、クソアマ。俺の目の前からとっとと失せろ」
畳み掛ける罵倒に、その女の本性が自ら晒されていく。私に明らかな敵意を持つ態度に悟からの苛立ちを感じた。隣からピリ…とした空気を感じる。こんなにキレた悟は久しぶりに見た……。
悟が優しくあろうとする自身を丸め込めない程に苛立ち、久しぶりの"俺"という一人称を使っていた。女はそんな悟を凝視して狂ったように自身の腹部を愛おしそうに撫でて見せていた。
「可哀想に、悟さん。その女から逃げられないのね。呪われてしまったのかしら…?解呪の出来る呪術師を探さないといけないわ……ああ、私の愛しの悟さん…、早くその女から開放されて私と悟さんとの子供の為に戻ってきて下さいね?」
私はぎゅっと悟の腕に掴む手で、服だけを強く掴んだ。
──なんていうか…すっげえ、むかつく。言いたいだけサラサラ言って悟の気持ちも聞かず自分だけで舞い上がっててさ…。
「おい、言っておくけど。オマエとの肉体関係なんて一度もねえだろ。オマエの家や俺の家の大人が勝手に決めた事、俺はつまんねえ女に一度も手出ししたいとも思わなかったぞ。
……その腹の子はどこぞの男に托卵されたんだろ、勝手に俺の子と認知してんじゃねえよ」
しがみつく私から腕を引き抜き、悟と反対側の腕を抱き寄せる彼。彼の腕というか胸元へとより体が密着した。彼のかつての許嫁は自己に酔う幸せそうな表情から一変して私を睨みつける。
「違うっ!私と悟さんとの子だから!その女こそ他の男に托卵されたんだろっ!?早く死んで彼を開放して!悟さんを誘惑するな、いい加減私達の幸せを壊さないでよっ!」