第37章 繋ぐいのち、五条と春日の鎹
まさか私がこういう揉め事を体験する身となるなんて。昼ドラの世界だけでやってろよ、と文句を言いたくても勝手にあちらから幕を上げられてストーリーは進められてんだ。
……それにしても汚らわしいもの、とか失礼だな、あの女…。
はあ、と悟は呆れたような言葉を漏らした。
「なに、変なひとって。汚らわしいとか失礼だろ、この子は僕の大切な奥さんだよ。キミには関係の無い事だろうけど」
「悟さんの奥さん…?妻ならあなたの目の前に居るじゃない。私こそが、悟さんの幼い頃からの妻なの、昔からお互いの家に認められた公認の……、約束された夫婦なのよ?
そんな弱小一族の末裔なんか、呪術界の御三家に嫁ぐ資格なんてないのよ。悟さん、あなたは騙されているんだわ…、早く目を覚まして私の元に戻ってきて下さいな?」
愛おしそうに自身の腹部を撫でている彼女。やけに寒気がする。そのお腹の子の父親は誰なんだろう……?まさか、彼に至って……。
嫌な考えが巡る。けれど私はその思考を振り切るように頭を振ってこれ以上不安な妄想を振り払う。
……いや、そんな事ない、よね?
悟は私の事をとても大事にしてくれているし、ずっとずっと、浮気してる隙すらないほどに愛してくれていた。側にいる間、うっとおしいくらいに注がれ続けた彼なりの愛。彼は愛ほど歪んだ呪いは無いと言っていたけれど、その歪んだ呪いをずっと受け続けて、悟は注ぎ続けた。外に向けることなんて無かったハズだ……ねえ、そうだよね?
妊娠したからと言って、私も時にノリ気じゃなくても悟の想いを私以外に向けられたくなくって体を繋ぎ止めた時だってあった。その溢れそうな情欲を他に吐き出させたくない気持ちもあったから…。
私達は愛し合った関係なんだ、彼女が割り込む隙なんて無い。
──私は、悟を信じてる。
そう強く想い、彼を見上げる。丁度私と目が合って瞳を優しく細めた悟。
「……オマエの想い、手に取るように分かるよ。いい子、僕はハルカ以外に気持ちは揺らがないさ、絶対に」
そっと頭をひと撫でした悟。
まただ……いや、"これ"だ、以前から感じてた嫌な視線の正体。
愛おしそうに撫でた彼から二メートル程先、進行方向に立ち塞がる女を見れば睨みつける表情。自身の腹を抱えていた手は服を皺になるほどに布生地を握りしめてる。