第37章 繋ぐいのち、五条と春日の鎹
『初耳、ですねえ~……今日、初めてそんな事を聞いたんだけど。もしかしてその記念日だからこうしてるの?』
見つめた先の彼は片手を挙げ、側に居たスタッフに「そろそろ食事持ってき始めていいよ」と伝えてる。私の手からする…、と手を引きすぐに私に顔を向け、頬杖をつきながら遅れて「うん」と肯定した。
「沖縄に行くのもアリだと思ったけど。ハルカの体か、蒼空が出たいと思った時か。臨月も間近に控えた奥さんを旅行に連れ回すのはスーパーダーリンじゃなくスパルタダーリンの方の意味でのスパダリになっちゃうしねー……せめてこういう所でご飯でもって思ったわけ」
『……ん、配慮ありがと。万全の状態で行きたいもんね』
「うん、きっと来年なら行けるかなあ……なんて僕は思ってるよ?」
スタッフがテーブルの側にやってきて、お互いの前に料理を置いていく。
一口大ほどの大きさのものがみっつ。野菜、肉、シーフードをテーマにした、ちいさな芸術品といいますか。大きな皿にちょこんと乗った料理。料理自体は小さいけれど、白い皿をキャンパスにしたみたいにソースや花びらで彩られている。香ばしくてとっても美味しそうで、少なく見える量だけど次々と新しい料理が運ばれてくるんだと私は悟に出会ってから知ることが出来た……食べる美術館、的なさ?
でもチェーン店での食事みたいに気を抜けないのは堅苦しいんだけど…。
悟は小さく笑う、その声に私は料理から目の前の彼に視線を上げた。
「さっ!食べよっか。僕は下戸、キミは飲めても今は妊婦で食卓にアルコールは無いけれどね?グラスを持って…、」
彼に誘われ私も水の注がれたグラスを持ち、小さくチン、と高音が響く、ふたりだけの客がいる貸し切りのレストラン。
「僕ら夫婦と新しい家族に幸福を願いまして!…さんっはい!」
『「乾杯っ」』
にかっ!と互いに笑い合って、突き出し料理を。食べた頃に前菜を……、と順番に運ばれてくる様々な料理。それらはどれも綺麗に飾り付けられて一口を飲み込むにも勿体ないって思ってしまうほどに美味しく、お腹が空いている万全の状態なら全て平らげていたんだろう品々。
食事が進む毎に私は腹部の圧迫て少ししか手を着けられなかったけれど、最後のデザートは絶対美味しいもんね、としっかりと食べてしまった。