第36章 私達だけの世界
じっとりと汗をかく中で額を手の甲で拭う。
暑いと食欲もなくなるし、寝付きも悪いからいつもよりも身体が重く感じる。マンションだったら冷房効いてて丁度良いんだけどなあ~……こっち、無いんだよね。
森が多いのはちょっと涼しいけどどこに居ても逃れられない夏の風物詩の鳴き声に苛つきっぱなしなんだけどどうしてくれんのよっ!
さっき拭った汗が歩行中の風に晒され冷えた所で、その手が悟によってぎゅっと繋がれる。大きくて熱くて、汗ばむ手の平。そこにはドキドキとかそういった恋愛感情は今は全く湧き出してこない。
『やだ、暑いんだから手繋ぎたくないんだけど』
「僕は繋ぎたいの」
『やー!』
抵抗しようにもがっちりと絡められた手。強引で離してくれないこの手は剥がせない、と理解して仕方なく受け入れると「諦めんの早っ」って驚かれてしまった。無駄な抵抗は体力減るしやってらんないんだし!
「ほら、もうすぐ医務室だよー、頑張って☆」
『手を離してくれたら頑張れる気がする…』
「それはリームー」
『やー……(あっつい!)』
医務室ドア前に来たら悟は立ち止まり、私が手を伸ばすよりも先にドアを開けた彼が先に入り、繋がれた手に引かれて私も入る。室内の窓を開け、扇風機を回している硝子が疲れた顔して椅子に座っていた。
片手を挙げご機嫌に「お疲れサマンサ!」と硝子に挨拶をする悟。そのまま悟に手を引かれながら私も『お疲れ様です』と声を掛けると彼女はふっ、と力なく笑った。
「っはー…五条夫妻の登場でやっと私も休めるな……」
「朝から治療してた感じ?」
「日が昇る前からだよ。蝉も煩いし寝直しも出来ないし」
散らかったデスク上を片付けていく硝子。ペンをしまい終えて椅子をぐるりと回転させ、私達を見上げた。
「昨日病院行ってきたんだろ。ほら、どんな調子だった?」
よいしょ、と硝子の前にある椅子に腰掛けると、悟が私のトートバッグから手帳を取り出す。何度も捲られ、たくさんの写真を貼り付けた母子手帳。それを悟から硝子に渡されて、彼女は目の前で昨日貼りたての新しいページの写真を見つめていた。
「ぷっ、はは……、なにこれ?グッドサイン出してるじゃん、ありえんの、こういうのって」
「だっろ!?凄いでしょ、こっちに向かって"幸運を祈る"って!生まれる前からイケメンかよ~、くぅ~!蒼空君、ファンがついちゃうぞっ!」