第36章 私達だけの世界
358.
暑い。暑い暑い暑い…。
『ガッデムホット…!あっつーい…』
七月も終わりを迎える頃。寮の部屋から医務室にと向かっている私の隣には、汗を吸い込んでいそうなアイマスクをした悟と並んで歩いてる。
悟も暑そうだけどさ、それ取れば良いのにね…?全身黒尽くめじゃん、熱吸収しまくりじゃん……私よりも暑いはずでしょ。
硝子の休みを回すためのシフトが入っていて、その最初の日の今日、飲み物だとか自分の事務用品などを詰めたトートバッグを隣の彼が片手の指先に掛け、私と反対側の背に背負ってる。普通にぶら下げれば良いのに歩を進め度に悟の背に袋が当たって中に入った飲み物がちゃぽんちゃぽんと騒がしい。
麦茶が炭酸麦茶になっちゃうよぉ……とか言ったら悟に鼻で笑われそう。だからそれは言わないもん。
夏だからね。高専は木々に囲まれているから蝉が大合唱なわけ……。夕方なら涼しさを感じるけれど、こうもあちこち煩いと余計に暑さを増すような苛立ちを感じるネ!
雨が降った時や夜には鑑賞池があるせいか、カエルも煩いし。寝付きが悪くもなるよね。しかも眠る時に暑くても張り付くデカイ男も居るし。私専用の妖怪かよ。
……向こうも流石に我慢出来ない暑さの時は悟自身から離れてくれたけど。
私の隣でへへっ、とちょっとイラつく笑い声を漏らす悟。
「そんな自販機みたいにつめた~い、あたたか~いみたいな言い方しても暑く感じないけど?」
『……屁理屈返しもめんどくさーい』
「キミにツッコミを飽きられるのは心外だな。そこ諦めずもっとツッコんでよ、僕ひとりだけボケてて寂しいじゃん」
『私、悟と漫才コンビを組んでるワケじゃないんだけどな?漫才したけりゃ傑さんに付き合って貰いなよ…あんたらズッ友だろ?』
差し込む光が数秒、体を照らしつければ暑い。遠火での焼き肉になってる気分なんですけど。
通路の途中で私はぴた、と立ち止まり即座に日陰のある場所を歩けば、そんな様子を見ていた悟がはははっ!と可笑しそうに笑った。
「なにキミ、吸血鬼かなんか?それとも隅っこ走るよハムタロサァン?」
『……うるせっ』