第36章 私達だけの世界
術式を持ち、六眼を持つ五条家を引っ張る存在となる僕の発言力はとても強い。僕から番の関係を断つのは容易だった。向こうの親も僕の家も反対はしていたし、本人も嫌がってたけど、嫌なものは嫌だろ?
だから学生時代に婚約関係を切って、僕は好き勝手に遊んで、風のうわさで元許嫁も僕という決めつけられた男から開放されて男を作ってたって聞いたし。
僕もちょっとした罪悪感…幼馴染に関する心配もなくなった、と心置きなくそのまま自由にしてたけど……。
──急だな。
僕がハルカと結婚して、子供作って幸せな中での久しぶりの再会。これが偶然かどうかは疑問だけど。
顔のラインや脚などを見てからの腹部を比べれば、妊婦である嫁を持つ僕からしたらひと目で目の前に居るこの子も妊娠しているんだろうと感じた。
彼女は僕の視線に気が付いて、愛おしそうに腹部を円を描くように撫でている。
「……この子の事、気になる?」
「ふーん、妊娠してたんだねえ~……そいつはおめでと」
気にならないと言えば嘘。でも、誰かとの間に妊娠してるんだ、彼女なりに許嫁という関係を解消され、人生を歩めているのなら何故、今更僕達に関わってくるんだ…?という疑問はある。
女は壊れたような笑みを浮かべた。
「私と、悟さんの子」
「──は?」
そんなはずはないでしょ。素で驚いちゃったよ。マジ鳩に豆鉄砲。
許嫁だった、とはいえ清い関係だった。
肉体関係になんてなってない、ていうかハルカと正式に付き合って以降、彼女以外の女の子を抱いてすらいないんだけど。
こういう僕の責任かどうか不安になるような、わけ分かんない事防止の為にもハルカに再会する前までは性格を出来るだけ隠し(僕の性格知ると大体逃げちゃうし)女の子と遊ぶ時は避妊してたし。
金ならあっても五条の血を受け継ぐ子を生み出すって事は重要。そこはしっかり考えてるんだよ、僕も。僕はね、もう昔と違う、嫁さん一途なわけよ?
──嘘だね、僕の子供はハルカのお腹の子だけ。この先、僕の血を受け継ぐのは彼女からしか生まれないんだ。
喉から意図せずとも笑みが出た。見え透いた嘘、女が得意とするよねえ~……結構、夜だけの"お友達"とかにそういう嘘をつかれ慣れてるからいい加減こっちは学習してんだ。