第36章 私達だけの世界
時間、どれくらい経ったのかな、とスマホを取り出す。開始時間より結構経ってるとは思うけど……。
画面には丁度非通知の着信画面。それは今から向かっているメンバーでも高専からでもない、ここ最近良く見る名前…。またか、とそれを無視して時間だけを見る。
ああ、皆が集まって一時間も経ってるんだ、僕が着く頃にお開きとかされたら拗ねちゃうかもー……。お会計だけオナシャス!とか言われたら流石の僕も人間不審になるね。
その人間不信の解消方法として具体的に言うと、一週間はハルカをユーカリの木としてしがみつかせて貰おう。でも身体に負担掛かっちゃいそうだからしないけどー!
ポケットにスマホをしまうと歩道のど真ん中に棒立ちしている人が居る。そいつは女だ。誰だ…?と思ったけれどその面影は知ってる人物。女は片手で耳にスマホを当て、もう片手で自身の腹部に愛おしそうに手を触れていた。それはハルカくらいに膨らんだ腹。
「……オマエ…、」
思わずその女の前で僕は足を止めた。止めずには居られない。
だってさ、こいつなんだ。
番号を変え、通知も出さずに何度も何度も僕に連絡してくる相手。さっきの非通知の犯人は目の前に居る女。
女は僕を見ると笑ってスマホをゆっくりと降ろした。僕のポケットの中で震えていたスマホが静かになる。
「やっと、会えた……悟さん…!」
サングラス越しに見える光景。にっこりと笑う女の目にはまるで僕しか映っていないみたいに狂気を孕んでた。
「はあ…、またオマエか。いい加減迷惑なんだけど?」
しまったばかりのスマホを取り出して彼女に見えるようにチラつかせる。
この子を知ってる。ハルカよりもずっとずっと前から知っている。だってこの女性、いや、コイツは僕の知らない所で家の関係で勝手に"番"と決められ、幼馴染みとして過ごした子だし。
でも、僕には恋も愛も……そういう感情はその幼馴染みには芽生えなかった。
いや、昔から一緒に過ごしていても楽しく無かったし、遊んでも都合が良くないから許嫁という関係を断ち切ったんだ。よっぽどその辺の女の子をナンパした方が楽しい思い出を作れたくらいに。
やせっぽちでもふとっちょでも、貧乳でもない。ブスでもない。この子は一般的に美人のラインに入るんだろう。でも、好きになるなんて事はなく、僕は彼女と生涯を共にするイメージが湧かなかったんだ。