第36章 私達だけの世界
女性が死に、膨らみ、腐り……最終的に骨となり、大地へと還っていく様。
思い出せば一緒に観に行った子と共に口に手を当てじっくりと見た気がする。吐きそう、とかじゃなく衝撃的なものであったから……。
斜め前の七海は薄っすらと笑った。
「宜しい、あなたもちゃんと勉強をしていたんですね」
『心外~…七海さん私をどういう風に思っていたんですか…?』
これ、七海にもヤンキー風に見えてんな?と彼を見ると「続けます」と九相図の話を続けてようとしていた。私の質問には答えないっていうか、ノーコメントとして流されたか。
料理が届き始めて傑が私の隣でスタッフから受け取っている。七海はスタッフが背を向けた瞬間にまた口を開いた。
「呪術界にもその九相図という名を冠した呪物が存在します。受胎九相図、というのですが150年前、加茂家のひとりの呪術師が作り出した九体の呪物。
それが先日盗まれかけ、侵入者が呪物を使った結果受肉したという事です。厳重な警備だったので警備体制や呪符の見直しなど大変な事になっていますね」
『……とんでもないこと起こってるじゃないですか…』
「はい、とんでもないことが起こってますね」
平然として背筋を伸ばしたままグビ、とグラスを傾けてる七海。隣で大皿に乗ってやってきた料理を分けて配る傑ママを見ると、ママはカッチカッチとトングで威嚇してる。
『大丈夫なんです?特級呪術師殿』
「んー?まあ、他の受胎九相図達を開放しろ、くらいはこちらに注文はしてくるけれどそれ以外は友好的だよ、彼らも。完全に安心は出来ないけれどね……。
だから今日、悟は遅れてくるんだ」
『……ふーん、悟も仕事をするんだなあ~…傑ママも大変ですねえ』
「私はママなのかパパなのか…」
取り分けて空になった大皿にトングを置いた傑ママは置き(ちゃんと悟の分分けてある…)
ビールを追加で頼んだ硝子がジョッキを持ち上げた。
あー…硝子の…美味しそ~……。
この甘いの飲んだら硝子が飲んでるのは飲めずとも、それに近いノンアルビールでもいくかあ……。